カスタム・アフターパーツ | 2021.05.11
低偏平タイヤとは?偏平率で何が変わるのか
Posted by 菅野 直人
2020年現在では、295/25R21など実物を見ると、「ほとんどゴムはオマケじゃないか!」と言いたくなるほどの低偏平(ロープロファイル)タイヤも販売されていますが、タイヤのインチダウンが認められ、どのような車でもサイズの設定さえあれば、超偏平タイヤを履けるようになったのは、ここ30年ほどでの話です。偏平率の低いタイヤでは何が変わり、どのような楽しみがあるのでしょうか?
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その昔、「暴走族じゃあるまいし」と運輸省に認められなかった低偏平タイヤ
タイヤの横幅に対するサイドウォールの高さを表すのが「偏平率」です。185/60R14というサイズで言えば「60」の部分が該当しますが、昔は偏平率を含め純正サイズ以外のタイヤを履くなんてとんでもない!という時代がかなり長く続き、今でもご年配の方は、純正サイズしかダメだと思っている方もいます。
何しろ1960年代まで国産車のタイヤといえば82偏平が標準で、まだ道路の舗装率が低く、オイルショック前で燃費性能もそんなに気を使われている時代ではなかったため、乗り心地がフンワリしていて、タイヤの接地面積も少ないため、燃費効率もよろしい82偏平タイヤでも十分でした。
ただ、海外では1970年代から70偏平や60偏平が登場し、バイアスタイヤからラジアルタイヤへの過渡期でもあり、高級輸入車が履いている低偏平タイヤ(当時は70でも低偏平だった)をうらやましがるユーザーが多かったものの、そこで立ちはだかるのはいつの時代でも自動車メーカーとユーザーに睨みを効かせる運輸省(現・国土交通省)です。
最初から60偏平タイヤを履いてくる輸入車は仕方ないとして、国産車に関しては「暴走行為を助長する」という、今から考えると意味不明な「行政指導」で70偏平タイヤまでしか認めず、初代カローラレビン/スプリンタートレノやフェアレディZの履く70偏平タイヤでさえも、「スポーティな低偏平タイヤ」とされていました。
それが緩和されたのは1980年代、車に関するほとんどがそうであるように自動車関連の各種メーカーを擁する諸外国からの「外圧」で、要するに「ウチでつくっているタイヤを妙な理由で売らせないなんて、非関税障壁じゃないか!」というクレームによって、まずは60偏平から次第に認められていったのです。
それでも抵抗した運輸省は一気に無制限としたわけではなく、時代が流れるごとに「行政指導」を次第に緩めていき、今では25偏平のタイヤでさえ、一般に販売されています。
低偏平タイヤでまず変わるのは「見た目」
偏平率の低いタイヤは、走行性能にも大きな影響を与えますが、実際にサーキットなどで限界域での走行を行うわけでもない大半のユーザーにとっては、まず「見た目」、つまりドレスアップ目的が低偏平タイヤにする最大の理由でした。
タイヤのサイドウォール部分が高いタイヤというのは、本格オフローダーなど性能と外観がマッチする車や、F1マシンのように規則で決められているレーシングカーであればともかく、市販車であれば似合わない、なるべく薄くしたい、という流行が1980年代から1990年代にかけてありました。
そのために、まずはインチアップで幅広かつタイヤウォールの低い低偏平タイヤを履き、ローダウンなど大幅な規制緩和と合わせ、「とにかく車高は低くしてタイヤとフェンダーの隙間は狭く、タイヤは幅広でフェンダーとツライチ、サイドウォールは極力薄く」が大流行しました。
自動車メーカー側も心得たもので、次第に純正装着タイヤのロープロファイル化(低偏平化)を進めて軽自動車でも50偏平タイヤを純正装着するほど、コンパクトカー以上ではオプションで標準以上のインチアップホイールや低偏平タイヤを選べるようになっていきますが、アフターパーツマーケットは常にその先を行き、過激になっていきました。
そうなると、中には「あまりに大径ホイール&低偏平タイヤにした結果、ホイール内側の小径ブレーキローターやブレーキドラムが貧相に見えて仕方ない」という現象が起き、特に性能的に必要がなくとも大径ブレーキローターへ交換してみたり、ブレーキドラムへ履かせる「フェイクローター」も登場しますが、それはまた別なお話です。
走行性能や乗り心地に与えた影響は?
一方、性能面に関して言えば、タイヤのサイドウォールとは、カーブなどで横Gがかかった時など想像以上に激しくたわみ、ジムカーナなど激しいスポーツ走行でコーナリング中などを写真に収めると、サイドウォールがほとんど潰れてホイールが路面に接地せんばかり、というシーンも見られます。
ならば、サイドウォールの剛性を上げれば良いわけで、実際に通称「Sタイヤ」と呼ばれて公道走行も可能なセミスリックタイヤの剛性は非常に高いのですが、その場合、路面からの入力を吸収する効果も薄くて乗り心地がゴツゴツしますし、「ゴー」というロードノイズも増えて、快適感という意味では褒められたものではありません。
セミスリックまでいかない、乗り心地にも配慮した公道用スポーツタイヤ(通称「スポーツラジアル」)やコンフォートタイヤの低偏平タイヤであれば、サイドウォールの高さを減らすことで結果的にサイドウォール剛性を上げてタイヤのよじれを減らし、快適性も許容範囲内となります。
ただ、偏平率を下げれば下げるほど路面からの入力を吸収する効果が低くなるのは変わりないため、ドレスアップやチューニングより乗り心地重視であれば偏平率はほどほどに、せいぜい純正同等サイズ程度にしておいた方が無難です。
また、見た目(ドレスアップ)の項でも触れましたが、古い車へむやみに低偏平タイヤを履くと結果的に大径ホイールを履かざるを得なくなり、かえって見た目を悪くしたり、それを改善するために、余計な(しかも性能的には不要な)コストがかかるようになります。
さらには、車はヒストリックカーなのにタイヤだけ妙に現代的で見た目が浮いてしまったり、設計時に考慮されていなかった路面からの入力でモノコックの歪みを誘発するなど、別な問題が生じることもあるため、あくまで「その車で似合うかどうか」と「自分の趣味に合うかどうか」で決めるのが得策です。