コラム | 2020.07.17

5バルブエンジンとは?流星のように現れ散った、技術の過渡期に生まれた徒花か

Posted by 菅野 直人

気づけば、ほとんどの車のエンジンは、「可変バルブ機構付きDOHC」で、1気筒あたりの吸気/排気バルブが2つずつある「4バルブ」になりました。日本ではライトバンでも軽トラでもほとんどそんな感じですが、かつては一部に「5バルブ」のエンジンもありました。4気筒エンジン車であれば、誇らしげに「DOHC20VALVE」などと貼られていましたが、すっかり消えたのは一言で言えば「コストパフォーマンスが悪くて無用」になったためでした。

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メカ好きの心をくすぐる響き、「5バルブ」はなぜ生まれたのか

本来、近代的な工業製品に搭載された内燃機関で多用される4サイクルエンジンは「空気と燃料の混合気を吸って、ピストンで圧縮して、点火して燃やし、燃焼後のガスを吐き出す」という4つの工程で「吸う」吸気バルブと「吐き出す」排気バルブの2つがあれば十分です。

しかし、燃焼効率を上げたい、パワーを出しつつ実用トルクも燃費も確保したいといった、さまざまな要望からバルブの数を増やす「マルチバルブ化」の試みはかなり昔からあり、20世紀はじめ頃には、限られた重量で最高発揮が求められる航空機やレーシングカー用エンジンに4バルブエンジンが登場します。

戦後には、主にスポーツカーなどで市販車にも使われるようになり、日本でも初代日産・スカイラインGT-R(PGC10・1969年)へ国産市販車初の直列6気筒DOHC4バルブエンジン「S20」が搭載され、1980年代になると、そこまで特殊ではない量販車用エンジンにもDOHC4バルブやSOHC3バルブ、または4バルブが主流になってきました。

しかし、当時の技術では闇雲に吸排気の効率を上げたからといって、効率や性能に優れたエンジンをつくれたわけでなく、特に高回転・高出力と低回転・大トルクを両立するために低回転時は吸気側のバルブを片方閉じ、あえて吸気経路を細くして流速を上げるなど対策して低回転のトルクを確保しました。

しかし、これでは高回転時はともかく、低回転時の燃焼効率は悪く、燃料噴射での洗浄効果もないため、可変バルブ機構にカーボンが詰まって故障しやすいなど、デメリットも目立ちます。

そこで自社製エンジンを開発している自動車(バイクも含む)メーカー各社は、さまざまな対策を研究していき、その中の答えのひとつが「DOHC4バルブエンジンの5バルブ化」でした。

低回転から高回転までの高効率エンジンを目指した5バルブエンジン

世界で初めてDOHC5バルブエンジンを市販車へ搭載したのはヤマハで、1985年に発売された同社のスポーツバイク「FZ750」用に1気筒あたり5バルブの749cc直列4気筒DOHC20バルブエンジンが初登場しました。

4輪では三菱が、548cc直列3気筒の軽自動車用エンジン「3G81」にDOHC15バルブ版を開発、1989年に550cc時代末期のミニカダンガンSi系/Ri系へ自然吸気仕様を、同ZZ系へターボ仕様を搭載し、ターボ仕様は同社の軽自動車初の64馬力自主規制値に達したエンジンでした。

さらに三菱は、660cc軽自動車時代(1990年1月規格改定)に入って、3G81の657cc版「3G83」でもDOHC15バルブ版を、後継として1993年に登場した上級グレード用4気筒エンジン「4A30」では4気筒DOHC20バルブ版を開発し、3G83は自然吸気/ターボ仕様の双方、4A30はターボ仕様をつくって、ミニカダンガンやミニカトッポ、パジェロミニに搭載、あるいは贅沢なDOHC20バルブターボエンジン搭載の軽1BOX車、ブラボーGTも生み出しました。

国産車でもうひとつの流れはトヨタで、名機4A-Gへ可変バルブ機構VVTとの組み合わせで1981年にAE101カローラレビン/スプリンターや、同じくカローラGTなどカローラ系の上級グレードやカリーナGTへ搭載していきました。

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これらに共通しているのは、「スポーツ走行などで求められる高出力と、低速トルクの両立が定評ではなかった、あるいはそう予想されるエンジン」ということで、たとえば4A-Gなど、低速トルクがあるスーパーチャージャー仕様の4A-GZEは16バルブ仕様のままです。

5バルブエンジンといえば「吸気バルブ数を増やして空気を多く吸い、大出力を出すエンジンだ」と思われがちですが(一部には排気バルブを増やし排気効率を高めた例もあります)、それよりは吸気バルブ1本あたりを細くして、吸気量だけでなく流速も稼ぎ、低速トルクを増やして日常域から高速域まで気持ち良く走ることができるのを理想としており、採用エンジンはいずれもそれに成功しています。

他の対策が成功すれば不要になる運命であった5バルブエンジン

しかし、三菱4A30もトヨタ4A-Gも、2002年から厳しくなった排ガス規制を乗り切ることなく生産終了、ヤマハも最後の5バルブエンジン搭載バイクであったYZF-R1を2007年式から4バルブエンジンへ切り替えてしまいました。

根本的な理由はどれも同じで、5バルブエンジンは吸排気バルブの数が均等でなく、吸気バルブの数が多い場合は、混合気がきれいな渦を巻けるよう燃焼室形状を最適化するのが難しく、市販車であれ、レーシングカーであれ、開発コストと時間がそれなりにかかる代物だったためです。

それでも他に方法がなければ採用され続けたかもしれませんが、そもそも他メーカーを見れば、ホンダは有名な可変バルブ機構VTECで、スズキやスバルは、最初からDOHC4バルブだけで優れたエンジンをつくっており、ダイハツなど550cc時代には、SOHC2バルブのままマルチインジェクション(気筒ごとの燃料噴射)やブーストアップで64馬力を達成し、その後はやはりSOHC/DOHC4バルブに進み、どこも5バルブエンジンなどつくっていません。

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考えてみれば、三菱も可変バルブ機構MIVECを開発して市販車に搭載しており、トヨタも4A-G以外はDOHC4バルブに可変バルブ機構VVT-iなどを組み合わせていて、1990年代後半にはすっかり「5バルブなど開発コストが潤沢だったバブル時代の遺物に過ぎない」と結論が出ていました。

もちろん、あらゆる対策を組み込んだ上で5バルブ化を続け、手間ひまをかければさらに究極のエンジンができたかもしれませんが、レーシングカーや海外の高級スポーツカー、プレミアムカーならともかく、販売台数を稼ぐ必要のある国産市販車で、そのようなことをやっている場合ではありません。

レーシングエンジンですら「セッティングが面倒」と嫌われたくらいで、ちょっとばかり速くするために多大な苦労を強いられる5バルブエンジンより、確実な4バルブエンジンへと回帰していきました。

こうして「ちょっと贅沢な寄り道」は終わった

かくして、コスト優先でエンジンの種類を絞り込み、派生エンジンをつくるにしても可変バルブ機構や燃焼制御技術、タービンでの過給を全てDOHC4バルブに最適化してソフトウェアで制御してしまう方が開発も生産も完成した製品もよほど効率的で、わざわざ面倒な5バルブエンジンをつくる必要性など、どこにもなくなっていました。

メカ好きの人であれば、「5バルブ」というだけで「バルブの数が多くて強そう」という心のトキメキはありますが、それだけのためにメーカーがコストをかけても、大した性能差がなければユーザーの心も冷めていきます。技術的にもコスト的にも不要、ユーザーは他の技術で満足しているとなれば、5バルブエンジンの居場所はどこにもなくなりました。

そもそも車のエンジンというのは、社会やユーザーからの要望に応えるため、あらゆる手段を講じてコストの許容範囲内で進化していくものであり、できるのであれば、SOHCやOHV2バルブのままで要望に応えることができれば、部品も少なく単純軽量、生産に手間がかからずコストも安く済んで最高なくらいで、部品点数や加工の手間ばかり多いわりに、報われないDOHC5バルブエンジンは、「ちょっと贅沢ができた時代の寄り道」で終わったのです。

ただ、自動車のあれこれというのは、性能だけで語れるものではなく、時には「カッコイイ」とか「響きがイイ」というのが製品としてとても重要な場合があります。

少なくとも5バルブエンジンには、「4バルブとは違うのだよ!どうだいこの精密さは!」と胸を張れるだけのインパクトがあるのは事実で、実際の採用例がなくなっただけに今後も「失われた夢の技術」として語り継がれていくことでしょう。

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