カスタム・アフターパーツ | 2021.05.11
見た目だけじゃない!「GTウイング」の必要性とメリット・デメリットとは
Posted by 菅野 直人
自動車の車体後部へステー(柱)を介して、高い位置に取り付けられる「GTウイング」。リアウイングやリアスポイラーと呼ばれるエアロパーツの仲間で、実際の空力効果だけでなく、ドレスアップ効果も高いため、カスタムカーでは定番アイテムのひとつとなっています。その必要性やメリット・デメリットについて解説しましょう。
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SUMMARY
GTカーで多用されたリアウイングだから「GTウイング」
自動車のエアロパーツの中でも、後部のトランクリッドやテールゲートなどへ取り付けられる整流パーツは、厳密に言えばボディ形状に沿ったものが「リアスポイラー」、整流版がボディから離して取り付けられたものを「リアウイング」と呼びますが、実際には見た目やノリで何となく呼び分けている人も多いかと思います。
その中でもリアウイングは、1960年代にアメリカのシャパラルなどボディから大きく離し高々とした位置へ取り付けられたものが登場し、日本でも1968年に登場した日産・R381が「エアロスタビライザー」と呼ばれる左右二分割のロール連動独立可動リアウイングを装着し、「怪鳥」のアダ名で呼ばれるなど、レースファンには印象的な存在でした。
その後もカスタムカーなどで使用され、規制緩和以降は日本車でもスポーツタイプに多用されていきますが、中でも1994年に始まった全日本GTカー選手権「JGTC」(現在のスーパーGT)では、その初期こそグループAレースからの流用車が多かったものの、次第にボディ形状の一部に市販車の名残が残る程度のボディメイキングとなっていき、リアウイングもフォーミュラカーや1960年代のレーシングカーのように、高い位置へ設置されるようになっていきました。
このスタイルが、1995年以降に市販チューニング/ドレスアップパーツのほとんどが装着してもマル改扱いにならない規制緩和もあって大流行し、スポーツカーやスポーツセダンどころか、ミニバンから軽自動車までがJGTCスタイルの後付けウイングを装着するようになり、「GTウイング」と呼ばれるようになりました。
駆動方式を問わないGTウイングの必要性。性能だけじゃなく見た目も大事!
当然ながら街往く市販車は、レースをしているわけではないため、GTウイングが求められる速度を出したり、ましてや競ったりということはありえません…というのは、もちろん建前で、実際には1990年代のドリフトブームや最高速ブームでエアロパーツの必要なシーンは急増していたため、性能面でも安全性向上の面でも望ましいものではありました。
既に空力パーツとしてリアスポイラーやリアウイングは、純正でも社外品でも存在しましたが、いずれもその車が本来持っているデザインを意識しつつ、その魅力をより引き出し、さらにダウンフォースや方向安定性向上といったエアロパーツ本来の役割を果たせれば問題がない程度でした。
もちろん純正装着車では、設計段階で何らかの空力効果を得ることができる、あるいは少なくとも悪影響は及ぼさないようにしていましたが、車外品はとにかくデザイン重視、インパクト重視のドレスアップ専用パーツもあり、ユーザーにとっても極端な話、「風洞実験するわけではないので、カッコよければそれでよい。」というものです。
ただしGTウイングは若干ポジションが異なり、整流版を車体から離して取り付けるため車体表面を流れる気流の影響を受けにくく(ハッチバック車など逆に受けやすいよう取り付ける場合もあります)、空力効果により与える影響は良くも悪くも普通のリアスポイラーやリアウイングより大きいため、装着効果は操縦性やタイム、最高速へより顕著に現れました。
あまり適当なものをつけると悪影響も大きいですが、それだけ効果が高く、しっかり設計されたものを計算の上で取り付けた場合の必要性は、非常に大きいものです。
ただ、空力パーツである以上は、それほど速度を出さなければ影響は少ないため、「何か凄そう」と思わせるドレスアップ効果が、もっとも大事なのは言うまでもありません。車とは、ただ速ければよいというものではないのです。
GTウイングのメリットは、ダウンフォース効果によるトラクションや安定性向上にあり
そのメリットについては、リアウイング同様、表面を流れる空気で整流版の底面に負圧(この場合は下向きの力)を発生させ、車体を路面へ張りつけさせるような「ダウンフォース」が最大のものです。
飛行機であれば、上向きの力を発生させて飛び上がるところですが、GTウイングの整流版は飛行機の翼とは上下逆に取り付けられ、下向きの力を発生させるとともに、飛行機と同様にフラップとスリットといった空力不可物を装着、あるいは可動させることで、その効果を調整します。
また、翼端(整流板の左右端)やウイングの途中に垂直安定板(飛行機の垂直尾翼に相当)を設けることで、高速域での方向安定性を向上させるほか、装着位置によっては、車のルーフ(天井)やテールゲート、トランクリッド上面を流れた直後に渦を巻いて抵抗を生む、吸い込み効果を低減し、気流を整えスムーズに流す効果も期待することが可能です。
それによりFRやMR、4WD車といった後輪を駆動する車ではタイヤを地面に押しつけるトラクション性能が増し、高速域での加速やブレーキング性能、コーナリング性能に直結します。また、FF車でも高速安定性やブレーキング性能を得ることができるほか、サスペンションセッティング次第では、前輪駆動でも条件によってはトラクションを増すことができます。
時には、プリウスのようなエコカーでも装着例がありますが、多少の重量増加や燃費悪化をしのびつつ高速安定性を増す意図があれば有効で、整流効果を重視した設計を行えば、燃費との両立も不可能ではありません。
抵抗増加というデメリットや空力効果が得られない低速時をどう御していくかがポイント
しかし、基本的には高速域での空力効果、具体的には80~100km/h以上で、車体や整流版の表面を流れる気流も高速になった状態を前提として、その気流を制御したり、利用したりするということは、単純に考えれば「抵抗を生んでいる」ことにほかなりません。
逆に言えば、「GTウイングが抵抗を生んでも、それ以上のメリットがあるから採用する」場合に最大限の効果を発揮するわけですが、設計や設置場所、セッティングを誤れば、単に抵抗が増すだけで何の効果も得ることができず、最高速の低下や、むしろ安定性が悪化するなど、デメリットだらけということもありえます。
もちろんエアロパーツというのは、GTウイングだけではありませんから、他のパーツとの空力効果も総合して考えなければいけません。しかし、最近話題になっているエアロダイナミクスタイヤのように、「使ってみたが思うような効果が得ることができず、むしろ何もない方が抵抗もなくてよいくらい」という結果になる可能性もあります。
また、空気抵抗というのは見えないながらも、凄まじい力を発揮するもので、むやみやたらに取り付けたはよいものの、何の補強もなかったために、走っているうちに空力で取り付け部が歪んできた!というのも、よくある話です(※筆者は何も考えずある車のトランクリッドへ他車流用のリアウイングを装着したところ、トランクリッドが見事に歪みました)。
さらに、GTウイングの全幅は、車両端から片側165mm以内か、あるいは翼端板と車体の間隔が20mm以内でボディ構造の一部と見られないと、保安基準に適合しない違法改造車となることにも注意が必要です。
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