コラム | 2021.05.15
セリカから始まったスープラの歴史を紐解く!70から90まで受け継がれるDNA
Posted by KAKO MIRAI
トヨタを代表するスペシャリティカーとして誕生しながら、継続を断念せざるを得なかった過去を持つスープラですが、その歴史は華々しいものでした。長らくスポーツカー不在の時期を過ごし、17年ぶりに復活を遂げたその舞台裏に迫ります。
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セリカXX、スープラ誕生
セリカが国内で誕生したのは1970年のことでした。派生車種としてセリカXXが登場したのは、8年後の1978年。A40型セリカのリフトバックをベースに、セリカの上級モデルとして開発されています。
その発端となっているのは、北米市場。日本車人気の高いアメリカ・カナダを指す北米は、現在でもシェア40%を誇り、日本車メーカーにとっても大きな市場といえるでしょう。そんな北米で1970年当時人気の高さを誇っていたのは日産 フェアレディZでした。
北米を意識して開発が進められたのが、国産名セリカXXの2代目にあたります。日本ではそのままセリカXXの名前で定着していましたが、アメリカでは「XX」の表記が成人指定の度合いを表すものとして使用されていた経緯がありました。
そのためセリカXXからセリカスープラへと名称が変更されることになります。そしてスープラの初代が誕生するきっかけにもなりました。国によって表現の違いがあることを思い知らされる事例ともいえるでしょう。
フェアレディと同等となる直列6気筒のクーペのスープラを作ることが、トヨタの戦略。しかし日産フェアレディZのように運転自体をスポーツとして楽しむスポーツカーというカテゴリーではありません。
セリカXXが目指したのはグランツーリスモというGTカー。長距離の運転でも動力性能と操縦性能を快適にする車でした。余裕のある大排気量や走行安定性といった走りを楽しむグレードです。
4輪ストラット式の独立サスペンション、固定軸の4リンクリヤサスペンションでショートホイールベースを採用していたフェアレディZ。そのハンドリング性能は走行性能に特化しているといえる仕上がりです。
セリカスープラはZにはない広い後席を持ち、パワーステアリングを採用したラグジュアリーさで、Zとは異なるユーザーの支持を集めていきます。北米では高い人気を集めますが、国内では初代ほどの人気とはならなかったようです。
そのため、初代のコンセプトは「高性能かつ豪華で快適な高級スペシャリティカー」でした。
世代が進むにつれて方向性に変化がみられるようになっていきます。最終的にはトヨタのフラッグシップスポーツカーに上り詰めたことは周知の事実でしょう。
初代のスタイルは2000GTを思わせるトヨタの頭文字であるT字があしらわれたフロントグルが特徴的です。また4灯角型ヘッドライトやカラードウレタンバンパー、ガラス調のリアガーニッシュに七宝焼きのエンブレムなどラグジュアリーな装いでした。
対する2代目は直線的な造形美が映えるシャープないで立ちで、スポーツカーにシフトしたデザインとなっています。なんと言っても低くなった車高とリトラクタブルヘッドライトを採用し、空力特性を意識したシンプルさも魅力です。
車は真横といわんばかりに、ダウンフォースを生み出す楔型のウェッジシェイプされたボディ。セリカよりも大きいエンジンを搭載したために生み出されたロングノーズは、いまだに色あせることのない名作といえるデザイン性があります。
初代のエンジンに採用されたのは、直列6気筒2.0Lの「M-EU」と、2.6L、2.8Lの「4M-EU」と呼ばれるM型エンジンが搭載。トルクを重視した低・中速域に定評のあるトヨタを代表する屈指のエンジンでした。
対する2代目では直列6気筒の2.0Lの「1G-EU」とソアラにも搭載された2.8Lの「5M-GEU」の2種類となり、ターボも追加されていきます。スタイルが変更されたことで空気抵抗性能を向上させ、Cd値0.34を実現。世界トップレベルの数値をたたき出しました。
北米市場を意識して誕生したのが、日本名セリカXXでありスープラの原型でした。
スペック表
全長mm | 4,660 |
全幅mm | 1,690 |
全高mm | 1,320 |
車両重量㎏ | 1,230 |
エンジン型式 | 1G-GEU |
排気量 | 2.0L |
最高出力ps | 160 |
スープラ70、国内モデル名称統一
1986年に誕生したA70型からセリカから独立することとなります。北米で使用されていたスープラという名前に統一。キャッチコピーは「TOYOTA3000GT」でした。2000GTやポルシェ944など世界のFRスポーツカーを超えるスポーツカーとして誕生しています。
アメリカでは3代目のスープラとなり、日本では初代となる70は、アメリカで高い人気を得ることになりました。当時のアメリカで、最も人気の高い日本製スポーツカーとしての地位を確立していきます。
デザインのテーマは「ドメスティック・パフォーマンス・デザイン」を掲げ、最新のGTカーとして空力性能を徹底的に追及し、Cd値0.32を実現。そのポテンシャルを体感できるのは、リトラクタブルヘッドライドトロングノーズのショートデッキのスタイルでした。
2000GT以来の自由度の大きい4輪ダブルウィッシュボーンのサスペンションの採用によって、高速直進性、コーナリング性能が格段に向上させるなど、スポーツカーとしてのメカニズムが満載されたといえるでしょう。
また70の特徴として挙げられるのは、グレードラインアップの豊富さです。5ナンバーの標準ボディに加え3ナンバーにワイドボディも加えられています。ルーフが着脱式のエアロトップも選択できました。
エンジンは直列6気筒が踏襲され、前期モデルでは4種類、最終モデルまでには6種類となっています。標準モデルとなった2.0L2バルブのSOHC6気筒の1G-EUモデルで105psでしたが、途中で2.0L4バルブのDOHC6気筒の1G-FEに置換。135psまで引き上げられました。
1988年まで使用されていたのは1960年のクラウンに採用されていたエンジンに改良を加えた7M-GTEUでした。しかし1990年に行われたマイナーチェンジで新エンジンが搭載。2.5L4バルブDOHC6気筒ツインターボの1JZ-GTEとなり最高出力はトヨタ初となる自主規制値の280psに達しています。
このエンジンは、マークⅡのスポーツグレードに採用されているエンジンと同様でした。またビルシュタイン社と共同開発した専用ダンパーなどスポーツ性能がさらに向上したモデルとなっています。
今までトヨタが出場したことのなかった『全日本ツーリングカー選手権』にも参戦を果たしました。歴史的なモデルが70です。ホモロゲーションを獲得するため、500台限定モデルとして登場した「ターボA」もあります。
スペック表
車両 | 前期型 | 後期型 |
全長mm | 4,620 | 4,620 |
全幅mm | 1,745 | 1,750 |
全高mm | 1,300 | 1,300 |
車両重量㎏ | 1,500 | 1,520 |
エンジン型式 | 前期型 | 後期型 | |
1G-EU | 排気量 | 2.0L | - |
種別 | SOHC | - | |
最高出力 | 105ps | - | |
1G-FE | 排気量 | - | 2.0L |
種別 | - | DOHC | |
最高出力 | - | 135ps | |
1G-GEU | 排気量 | 2.0L | 2.0L |
種別 | DOHC | DOHC | |
最高出力 | 140ps | 150ps | |
1G-GTEU | 排気量 | 2.0L | 2.0L |
種別 | DOHCツインターボ | DOHCツインターボ | |
最高出力 | 185ps | 210ps | |
7M-GTEU | 排気量 | 3.0L | 3.0L |
種別 | DOHCターボ | DOHCターボ | |
最高出力 | 230ps | 240ps | |
1JZ-GTE | 排気量 | - | 2.5L |
種別 | - | DOHCツインターボ | |
最高出力 | - | 280ps |
スープラ80、ワイルド・スピードで人気再燃
今でこそ曲面で構成された車体のデザインは一般的ですが、1993年に4代目として誕生した80スープラは、時代を先駆けたような丸みを帯びた美しいスタイルでした。「THE SPORTS OF TOYOTA」というキャッチコピーで、GTカーからスポーツカーへと進化したスープラです。
70スープラの開発時には、スポーツカーといっても恥ずかしくない車作りを目指したとコメントしているように、あくまでもGTカーとしてのスープラでした。80になりようやくトヨタのフラッグシップスポーツカーに登り詰めたということができるでしょう。
70スープラと比較すると、フェンダーをワイド化し、運動性能を高めるために全高も低くしています。全長とオーバーハングは短くしたワイド&ローなボディです。ドイツのニュルブルクリンクで鍛え抜かれた基本性能を持つ、真のスポーツカーでした。
その完成度は今でも評価されており、トヨタの車内訓練車としても使用されているほど。現在社長に就任している豊田章男社長も、スープラで鍛えられたひとりのようです。エンジンは直列6気筒の3.0Lのみ。NAとターボの両方が設定されています。
ゲトラグ社と共同開発した6速ミッションの採用は、国産車として初となる試み。電子制御式の4速ATも設定されています。また、パワーユニットには電子制御式サブスロットルシステム「ETCS」が採用されました。これにより最高出力は280psまで引き上げられることに。
「ターボRZ」グレードのサスペンションには、『ビルシュタイン』製のショックアブソーバーを標準装備。高速時の直進安定性を高めています。1994年には同社のトルセンLSDを採用し、大型リアスポイラーを装備した「SZ-R」グレードも設定されました。
室内はまるで、レーシングカーのようなコクピット。ドライバーを包み込むような、レーシングスピリッツにあふれています。ラグジュアリーな装備は全くない点も魅力のひとつになっているでしょう。
アメリカでは1980年代にスポーツコンパクトカーに人気が集まります。その後「JDM(
Japanese Domestic Market)」といわれる、日本独特の仕様や装備、カスタムが施された車が、若者を中心に評価を受けることになりました。
そこに2001年に公開された『ワイルド・スピード』で人気は爆発し、日本車がアメリカに広まるきっかけとなります。映画に出演していた故ポール・ウォーカーさんは日本車好きで知られる存在。自身も数多くの車を所有していました。
40歳という若さで、事故のために亡くなったポール・ウォーカーさんの遺作『ワイルド・スピード SKY MISSION』の最後のシーンでドミニクのチャージャーと並走して走行する白のスープラは、ポール・ウォーカーさんの所有車でした。
二つに分かれる道を別々に進むに2台の車が、ポール・ウォーカーさんとの別れを意味しているようで悲しみを誘います。多くの『ワイルド・スピード』ファンだけでなく、車好きのファンの中で、ポール・ウォーカーさんとスープラは残り続けていくでしょう。
2000年に行われた排ガス規制は、スープラのみならず国産スポーツカーを生産終了に追い込むことになります。2002年にスープラも生産を断念することとなり、その後永い眠りにつくこととなりました。
スペック表
車両 | 前期型 |
全長mm | 4,520 |
全幅mm | 1,810 |
全高mm | 1,275 |
車両重量㎏ | 1,430 |
エンジン型式 | 前期型 | 後期型 | |
2JZ-GE | 排気量 | 3.0L | 3.0L |
種別 | DOHC-NA | DOHC-NA | |
最高出力 | 225ps | 225ps | |
2JZ-GTE | 排気量 | 3.0L | 3.0L |
種別 | DOHC-2ウェイ
ツインターボ |
DOHC-2ウェイ
ツインターボ |
|
最高出力 | 280ps | 280ps |
スープラ90、ニュルブルクリンクへの挑戦
スープラ80の生産が終了してから実に17年が過ぎた2019年に、5代目となるDB90が誕生。それと同時に、BMWとの共同開発によって生まれたということに驚いた人も多かったのではないでしょうか。
BMWの中でスポーツオープンカーといえばZ4ですが、プラットフォームは別物です。意見を出し合いながらまさにゼロからスタートして作り上げた一台となっています。エクステリアはロングノーズ&ショートデッキを踏襲したFRのプロポーションを採用。
フロントマスク、リアフェンダーは4代目を引き継いだデザイン性となりました。見た目にはコンパクトに映るボディですが、4代目とあまり変わらないサイズです。80スープラと大きく異なっているのは後席の無い2シーターになっているということ。
ピュアスポーツとしての性能を生かすための、ベストなホイールバランスとトレッドにこだわっています。スープラを継承するためにこだわったのは直列6気筒の3Lターボにするということでした。
BMWとは、プラットフォームは共通化すること決定。しかしその後は完全に別物として開発が進められました。エンジンは、開発スタート当時に、世界で唯一直列6気筒を製造していたBMW製を採用することが決定します。
スープラ復活を願い続けていたのは、世界中のスープラファンだけではありません。社長を務める豊田章男さんもそのひとりです。ニュルブルクリンクで初めて本格的な開発が行われたのは4代目スープラでした。
ニュルを走行するマスタードライバーだった成瀬弘さんと、スープラの改良に携わっていた現社長の豊田章男さんがニュルで見たもの。それはドイツメーカーのほとんどが開発途中の新たなモデルでニュルをテスト走行しているという光景でした。
対してトヨタは、生産を終了してしまった80スープラのみ。この屈辱的な状況を忘れることができず、二人は開発を進めます。その結果ニュルで行われる『24時間耐久レース』に開発車両を持ち込み、レクサスLFAや86などが次々と活用されることになります。
そしてトヨタのフラッグシップモデルとなるスープラがついに『24時間耐久レース』に参戦を果たす日が訪れました。その日を前に車の性能を追求し続け、スポーツカーの必要性を豊田社長に伝えた成瀬さんは、ドイツでテスト走行中に事故死を遂げることに。
豊田社長はドライバーとして参戦した際、新型スープラでニュルに来ることができたと、心の中で伝えたといいます。
ニュルのみならずさまざまな道路を走り込み、完成したスープラのグレードは3つ。トップグレードの「RZ」、とチューニングの異なる「SZ-R」と「SZ」が設定されています。トランスミッションには8速のスポーツATが搭載され、6速MTは設定されていません。
エントリーモデルとなる「SZ」は、4気筒ターボで2.0Lとなっています。チューニングベース車両と考えられていますが、そのポテンシャルは非常に高いといえそうです。中間グレードとなる「SZ-R」は「SZ」と同様のエンジンですが、スポーツモード時の秀逸さを体感できます。
「RZ」は、直列6気筒ターボの3.0L。最高出力340psを発揮。エンジンのパワフルさが持ち味といえるでしょう。そんなスープラが僅か1年後にマイナーチェンジを行い、「RZ」の最高出力が47ps引き上げられています。
スペック表
SZ | SZ-R | RZ | |
全長mm | 4,380 | 4,380 | 4,380 |
全幅mm | 1,865 | 1,865 | 1,865 |
全高mm | 1,295 | 1,295 | 1,290 |
車両重量㎏ | 1,410 | 1,450 | 1,640 |
エンジン型式 | B48 | B48 | B58 |
排気量 | 2.0L | 2.0L | 3.0L |
最高出力ps | 197 | 258 | 387 |
まとめ
セリカXXから始まったスープラは、トヨタのフラッグシップGTカーから、自信をもってスポーツカーだといえる地位にまで登り詰めました。その歴代に与えられたスタイルと性能はいまだに色あせてはいません。
そしてまたスポーツカーとして、さまざまな挑戦をしてくれるのではないでしょうか。時代と共に新たなスタイルを確立してくれることを期待したいものです。