カスタム・アフターパーツ | 2021.06.25
フライホイールとは何か?どのような役割・特徴がある?
Posted by 菅野 直人
車の構造についての解説を見ていると、主にMT(マニュアルトランスミッション)車で「フライホイール」という部品が登場します。MT車のクラッチには欠かせないパーツである一方、トルコン式のAT車には存在しないようですが、どんな役割を果たすパーツなのでしょうか?
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自動車における「フライホイール」の意味
日本語では「弾み車」または「勢車(はずみぐるま)」と訳されるフライホイールですが、その名の通り回転させた時の弾みを使う部品で、はずみによりいろいろな機械の動きを滑らかに安定させる役割を持っています。
大抵は円盤の重心を軸に回転させる部品で、回転している限りは、外から軸に対してどのような力が加わっても、円盤の重量によって生じる「慣性モーメント」という力によって、加わる力にギクシャクした波があっても、それを慣性モーメントで可能な限り波を抑え、滑らかな力へと変えることができるのです。
レコードプレイヤーから人工衛星までさまざまな工業製品に利用されていますが、自動車の場合はMT(マニュアルトランスミッション)のクラッチに組み込まれており、トランスミッション(変速機)側のクラッチディスクに対し、エンジン側のフライホイールを押し付けることで、エンジンからの出力をクラッチディスクやトランスミッション、ドライブシャフトなどを通してタイヤへ伝える用途に使われています。
他に、フライホイールを回せば停止状態のエンジンを駆動させることもできるよう、円盤状のフライホイール外周には歯車の歯が設けられており、セルモーターで回ることにより、エンジンを始動させるのもフライホイールの役割です。
さらに、自動車の中にはウインチやクレーンなど自動車のエンジンを使って、搭載された機械を動かすPTO(パワーテイクオフ)という機能を持つものもあり、エンジンからの動力で常に回転するセルモーターを使った「セルモーターPTO」では、走行中でも停止中でも、エンジンが動いている限り他の機械へ動力を伝える役割もあります(一般的な車ではあまり縁がありませんが)。
AT車では基本的にトルコン(トルクコンバーター)がフライホイールの代わりに動力の波を安定させる役割を持っていますが、エンジン始動用リングギアだけは、「ドライブプレート」という、フライホイールと同じ役割をする部品が使われているほか、ハイブリッド車ではモーターによりエンジンを直接駆動するため、フライホイールもドライブプレートも不要です。
もしフライホイールがなければ、MT車はギクシャクした動きになる?
MT車でもしフライホイールがなく、エンジン側もクラッチディスクだけで接続したらどのようになるかといえば、エンジンから伝わる動力の「波」がそのままタイヤへ伝わり、低速ではギッコンバッタンした動き、高速ではバタバタした動きになり、とてもではないですが快適なドライブなどできません。
それどころか、低回転域ではアイドリングの維持さえも困難になり、停止していてもかなりの高回転でエンジンを回していないと、すぐエンストしてしまうでしょう。
エンジン、特に燃料と空気の混合気を爆発させてピストンを押し下げ、ピストンに接続されたクランクシャフトの回転を動力とする「ピストンエンジン」では、爆発で押し下げられたピストンを再び燃焼室まで持ち上げるのに、フライホイールの「弾み車」としての力が不可欠です。
2気筒以上のエンジンであれば、一方のピストンが押し下げられていると、他のピストンが混合気の爆発により押し下げられた力でクランクシャフトを回し、一方のピストンを持ち上げてくれます。
しかし、爆発→押し下げ→復帰という行程では、気筒数が少ないほど、気筒ごとの爆発の間隔で力が弱まったり強まったりする「波」が生じるため、各気筒でピストンを押し下げるたびにギクシャクした力が生じますが、ある程度の弾みがついたフライホイールは慣性モーメントで滑らかに回ろうとするため、ギクシャクした波を「一定の回転」にしてくれるのです。
これが4気筒、6気筒と気筒数が増えれば、気筒ごとの爆発で力の波を抑えるように設計でき(それゆえ多気筒エンジンほど振動が少なく滑らかとされる)、ロータリーエンジンなどピストンエンジンに比べれば最初からかなり滑らかですが、それでも完全バランスというわけにはいかないため、フライホイールなしでは実用的なMT車は成り立ちにくくなります。
あえての「軽量フライホイール」はなぜ存在する?
しかし、スポーツ走行やレース用のチューニングパーツには、フライホイールのメリットを少なくしてしまうような「軽量フライホイール」が存在します。
フライホイールは、慣性モーメントで一定の回転を維持しようとする力が働くゆえに、スポーツ走行時の急激な加速や、シフトダウンによるエンジンブレーキも使った急減速、同じくシフトダウン時にアクセルを煽って入れたいギアへ最適な回転数へ素早く同調させたい場合には、かえってフライホイールの慣性モーメントによる「一定の回転に維持しようとする力」が邪魔なのです。
そのため、クロモリ(クロームモリブデン鋼)やアルミ製の軽量フライホイールで慣性モーメントを減らし、エンジンに急激な動きの変化を可能としています。
もちろん、本来フライホイールに求められる「一定の回転に維持しようとする力」は減少するため、あまり軽すぎるとアイドリングや低回転域での安定は損なわれてしまい、スポーツ走行を重視したり、レース用の車でもなければ安易に装着すべきパーツではありません。
普通の車であれば、純正装着されたフライホイールにより高速巡航時の安定性などイージードライブを可能にしているため、その恩恵を最大限利用するのがフライホイールの正しい使い方と言えるでしょう。
なお、純正でも軽量フライホイールでも、クラッチ関係の部品とはいえクラッチディスクやクラッチカバーほどの摩耗はしないため、頻繁な交換は必要とせず、クラッチオーバーホール時に極度の摩耗やリングギアの欠けがないかなど点検するだけでも大丈夫です。