コラム | 2021.05.11
ATからMTへの換装、注意点や目安費用は?
Posted by 菅野 直人
MT車に乗りたいけれど、最近新車で買えるMTのスポーツモデルは、かなり高価な傾向が多く、1990年代までのように「ちょっと良いエンジンを積んで200万円くらいで買えるMTのスポーツモデル」は、軽自動車くらいになってしまいました。さりとて、その頃のモデルを中古車で買おうとすると、プレミアがついてやはり高価なため、「あえて安いAT車を中古で買ってMT化する」というのもひとつの考え方です。注意点や費用面を解説します。
以下の文中の買取査定額は、投稿日時点での目安になります。実際の査定額については相場状況や車両の状態によって大きく変動しますので、あくまで参考金額としてご覧ください
SUMMARY
乗りたい車のMT車はなかなか中古で売っていない?
2030年代には販売する新車が全て電動化、最低でもマイルドハイブリッドでなければ現実的な価格で販売するのが難しいと言われる時代を目の前にして、「純粋なガソリンエンジン駆動にMTを組み合わせたスポーツモデルを購入できる、最後の時代」になりそうな現在。
それでもホンダのN-ONEやスズキのアルトワークス、ダイハツ コペンのような軽スポーツや、スズキ スイフトスポーツ、日産 マーチNISMO S、トヨタ ヤリスZのようなコンパクトスポーツは、まだ新車販売されているものの、それより上のクラスでは、車両本体価格だけでも250万円を超えるようになり、あまり手軽とは言えません。
そもそも1990年代には、リッター100馬力を超える超高回転高出力型の自然吸気エンジンや、280馬力自主規制があったとはいえ大トルク、チューニング次第で激しく熱いポテンシャルを誇る高出力型ターボエンジンのスポーツモデルが、安いものの場合、軽自動車でなくとも100万円台で買えるという、すさまじい時代がありました。
そうした車のほとんどは、排ガス規制が厳しくなった2002年を境に、「手間とコストをかけてこれ以上改良して売っても採算を取れない」と消えていき、ミニバンやSUV、トールワゴン全盛期の中でスポーツモデルそのものが不遇となっていきます。
しかし、多数派でないにせよ「昔ながらのMTで操るスポーツモデルで思う存分楽しみたい」というユーザー層は存在し、そうした人々のために新車販売も続けられてはいますが、環境性能との両立で昔ほど刺激がなく、どうしてもハンドリング勝負になるようなスポーツカーに魅力を感じない人々は、いつの時代でもいるものです。
そこで1990年代「黄金期」のスポーツモデルを今でも乗りたいと中古車情報サイトを眺めるも、希望するモデルのMT車にはプレミア価格がついていたり、改造を繰り返してもはやノーマルな部分がどこまで残っているやら…という車が多く、現実的な価格で程度のよい車は、なかなかありません。
中には流通していてもAT車のみであったり、AT車比率が増えた1990年代のデビューのため、そもそもAT車しかなかったようなスポーツモデルもあり、「買いたくてもMT車はもはや売っていない」という車種もあります。
そんな車でも、ATをMTに換装するミッションスワップという改造手法でMT車として楽しむことは、可能です。
車種によっては難易度やコストが跳ね上がる!MTスワップの注意点
一口にスポーツモデルと言っても、スーパーカーでもない限りは、ファミリーカーなど大衆車やタクシーなど、営業車がベース車や派生車に存在しますし、基本の骨組みたるプラットフォームなど、そう何種類もないため、構造的にMT化が困難、という車はそうそうありません。
何しろ1990年代には、三菱 シャリオ リゾートランナーGTのように「ランエボと同じエンジンを積んだ4WDターボで、5速MTも設定されたミニバン」さえあったくらいですから、どのような車でも、親戚筋にあたる車のエンジンやミッションを持ってくれば、物理的なMTへの換装そのものは可能です。
そこでまず問題となるのは「そもそもMTを流用するドナー車や、中古部品が流通しているのか」で、MT換装も何も、まずMTを見つけておかないと話が始まりません。
それも、そこそこ程度が良いと高価ですし、手頃な価格でまだMTが使える部品取り車やレストアベース車、中古部品として流通しているMTそのものを押さえなければなりませんが、仮に一つ確保したところで、オーバーホールしないと使えない、さりとてオーバーホールのための部品が欠品していた場合、その車のMT換装そのものが現実的ではない、という可能性もあります。
もちろん欠品している純正部品をワンオフでつくる、もっと流通している車のMTを流用できるよう改造するという手法もありますが、そうなると途端に難易度も価格も跳ね上がるため、たとえば日産のシルビアやスカイライン、トヨタのスープラなどといった定番車種以外は、よほど気合を入れてかからねばいけないのが現実です。
さらに、車種によっては「そのエンジンを搭載したMT車がそもそも存在しないため、MT車用のECU(エンジンコンピューター)もこの世になく、フルコンと呼ばれる汎用ECUでイチからセッティングしなければならない」というケースもあります。
それでも湯水のようにお金をかけることでMT換装を実現してしまう人もいますが、そこまでお金をかけるのであれば、最新のMTスポーツを購入する選択肢もあるため、よほどこだわりのある人でないと、そこまではしません。
MTスワップで最大の注意点は、「現実的な価格で可能な車種なのかどうか」という見極めが、まず大事です。
それに比べれば、「もともとMTの設定がない車種を改造してMT化する」などハードルが低い方で、80系スープラの4ドアセダン版と言えるトヨタ アリストや、マークIIやチェイサーといった兄弟車にMT車があるX100系トヨタ クレスタのMT化は、ベース車や兄弟車のパーツを使ってMT化が容易な例と言えます(それでも最初からMT車が存在する車種よりは高価ですが)。
安ければ10万円台、高ければ200万オーバーなMTスワップの費用
そこで「MT化するのに現実的な価格とはどのくらいか」ですが、たとえばS13~S15シルビア、R32~R34スカイラインなど、最初からMTの設定がある車種のAT車を買ってきて、MTに換装する定番車種であれば、安ければ10万円台から30万円程度で済む、と言われています。
それがトヨタ アリストのように、「MTの設定がないAT専用車で、パーキングブレーキもフット式なため、クラッチペダルを追加するのにサイドブレーキ化が必要」といった、少々大掛かりな改造を要する車の場合、目安としては100万円程度からになります。
さらに、「最新型の車で、そのエンジンを積んだ車にMTがないため、ECUをフルコン制御に置き換えねばならない」という車、具体的に言えばMT設定がある2代目コペンが発売される以前に、同じターボエンジン(KF-VET)を積んだダイハツ ムーヴをMT化した例などでは、200万円オーバーです。
これほどの差があると、「なるほどMT化する車種選びは確かに大事だな」と、おわかりいただけるかと思います。
「MTスワップではなくエンジンスワップ」という発想の転換もアリ
なお、「MTスワップの必要性」は、「欲しいと思う車の中古車がATしか売っていない」という理由で生じてきますが、いっそ逆の発想で、「その車が欲しいわけではないが、MT車が売っているのでエンジンをスワップする」という考え方もあります。
たとえば、シルビアやスカイラインのMT車が売っているものの、ターボではないというのであれば、SR20DETやRB25DET、RB26DETTへ載せ替えても良いですし、シビックやインテグラのMT車が売っているがエンジンがSOHCだったというのであれば、タイプR用のB16BやB18CスペックRへ載せ替えても良いわけです。
あるいは、P10プリメーラのSR20DE・MT車へSR20VETを積んで理想の1台をつくってみるなど、選択肢はかなり広がります。
どのみち費用はかかりますが、車種によってはATからMT化への載せ替えで必須となる構造変更の改造公認申請(いわゆる「マル改」)が不要なケースもあり、必ずしもMTスワップにだけこだわる必要はありません。