コラム | 2021.06.25
改めて「トレッド」とは?その役割は?
Posted by 菅野 直人
車に関わる用語で「トレッド」という言葉がありますが、大きく分けてトレッドには車の左右タイヤ間隔を表す「トレッド」と、タイヤの接地面を指す「トレッド面」の2種類があります。それぞれの解説と役割を紹介しましょう。
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自動車の左右タイヤ間隔を表す「トレッド」
車のスペック解説を見ていて目につく場合の「トレッド」は、後で説明するタイヤのトレッド面(接地面)の中心を基準に、左右タイヤ間の距離(輪距)を指す言葉です。
大抵の場合は、全幅が広い車ほどトレッドも広く、さらに前後タイヤでトレッドは同じではなく、多くの車ではハンドルを回した時のタイヤの切れ角を確保して、低速では小回りを、高速域では旋回性能を確保するため、フロント側のトレッドがやや広い傾向にあります。
ただし、高出力エンジンを搭載した後輪駆動車では、エンジンパワーを効率よく路面に伝えるべく、グリップ性能を上げるため幅広いリヤタイヤを履くことが多く、その場合はリヤ側のトレッドが広くなります(F1をはじめ、後輪駆動のレーシングカーの多くがこの方式です)。
また、フロント側のグリップ力を最大限に発揮しつつ、リヤ側のグリップを想定的に落として積極的にテールを流し、ヘアピンカーブのようなきついタイトコーナーで素早く旋回したり、Fドリ(FF車のドリフト走行)を容易にするべく、かつカウンターステアでのタイヤ切れ角を大きく取るために、フロント側のトレッドを極端に広くとるチューニングカーもありました。
なお、トレッドの広い車が必ずしもタイヤの切れ角を大きく取れるとは限らず、直列6気筒エンジンを横置きするような車(ランチア・テーマ8.32や、一時期のボルボ車)では、長いエンジンを横置きするための苦肉の策として、トレッド幅が広くともタイヤ切れ角は並だったりします。
また、トレッドが幅広いからキャビンも幅広いとは限らず、空気抵抗を小さくしてキャビンも小さく軽くつくりたいスポーツカーなどでは、狭いボディから独立、あるいは大きく張り出したフェンダーへタイヤを収め、トレッド幅を稼いでいる車種もいくつかあるのです。
車の運動性能は、トレッド幅とホイールベースなどいくつかの要素との比率で決まる
トレッド幅は、車の走行性能に与え影響が大きいとはいえ、それだけでは決まりません。
前後タイヤ間の長さを表す「ホイールベース」との比率が重要で、ホイールベースを前後トレッド比の平均で割った「ホイールベース・トレッド比」という数値で表しますが、このホイールベース・トレッド比が小さい車(おおむね1.65あたりが基準)は、「ワイドトレッド」と呼ばれ、大きい車は「ロングホイールベース」と表現されます。
実際は、車のサイズや性格によってもワイドトレッドやロングホイールベースと呼ばれる数値は変わってくるため基準は曖昧ですが、ワイドトレッド車は運動性能重視のスポーツカー、ロングホイールベース車は高速安定性能や居住性を重視したセダンやミニバンで採用されるケースが多いようです。
また、トレッドとホイールベース以外に、ホイールベース間の外側を指す「オーバーハング」の長さや重量も運動性能には大きく影響します(オーバーハングの長さは重量は軽い方が運動性能は高い)。
また、全高が高い車の場合は、トレッドに対して全高の割合が大きいと、重心が高くなりがちなため、最近流行しているSUVでもスポーツタイプの車種では、最低地上高は高くともキャビンの高さを抑え、全高を低く構えた「ワイド&ロー」という、スポーツカーばりのワイドトレッド&低車高を狙った車も増えました。
ただし、車高がそもそも低いスポーツカーの「ワイド&ロー」に対して、最低地上高が高いSUVでは「ワイド&ロー」にも限界があり、コンパクトSUVではベースになった乗用車が5ナンバーでもトレッドを稼ぐため3ナンバーになったり、キャビンが狭すぎて実用性に欠けるというデメリットもあります。
タイヤにおける「トレッド面」は、接地面積や溝パターンの解説で使われる
車体の「トレッド」に対し、タイヤの「トレッド面」はタイヤの性能に関わる用語で、接地面積の大きさ(大抵は幅広さ)や、「トレッドパターン」とも呼ばれる、タイヤの溝パターンを解説する時の言葉です。
幅が広く、低扁平のタイヤではトレッド面(接地面)が広く取れるため、タイヤのグリップ性能を上げやすくなりますが、一方で接地面積が広いため転がり抵抗や空気抵抗も増えがちで、燃費性能はどうしても落ち、そのバランスが重要となります。
また、トレッドパターンは排水性能を上げるため、あるいはレースでの性能調整で意図的に接地面積を減らすための「縦溝」、路面へ食いつかせて、太さや形状により舗装路向けや悪路向けで走行性能を上げるための「横溝」、あるいは斜めの溝などさまざまなパターンがあります。
溝も全体のトレッドパターンを決める「グルーブ」(太溝)で構成されているのが大半ですが、スタッドレスタイヤのように、氷上性能を高めるべく「サイプ」(細溝)を多数設けて、吸水ゴムへ氷の表面の水膜を積極的に吸い取るよう設計されたタイヤもあります。
多くの場合は、グルーブにより「ブロック」と呼ばれる箱型形状が構成され、ブロックごとにサイプを刻まれたスタッドレスタイヤが目に付きますが、スポーツ走行などに使うタイヤほどブロックは大きく剛性を高くしてあり、排水性を考慮する必要のないサーキット走行での換装舗装路向けにはスリックタイヤという、トレッド面に全く溝のない平らなタイヤもあります。
なお、自動車用タイヤの場合は、「トレッド面」とタイヤ側面の「サイドウォール」、その中間の「ショルダー」で構成されている場合がほとんどですが、バイクや自転車などタイヤを傾けて接地させる乗り物のタイヤ、あるいは自動車用でもオフロード走行などで意図的に空気圧を落として使用するタイヤでは、ショルダーまでをトレッド面としてトレッドパターンが刻まれているのが特徴です。