コラム | 2021.05.11
スバル車の「STI」とは何か?STIチューニングは何が優れてる?
Posted by 菅野 直人
スバリストの中でも、スポーツ派にとっては欠かせない存在であると同時に、まだ手が届かないユーザーにとっては憧れの存在でもある「STI(スバルテクニカインターナショナル)」。 1988年の発足以来、スバルが限界へ挑戦する場には常にSTIの存在があり、数々のコンプリートカーも送り出すスバルの高性能部門としても機能しています。そんなSTIの歴史と、STIチューニングにおけるコンセプトをご紹介しましょう。
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SUMMARY
1989年1月2日。米アリゾナ州ATCにて
その日、アメリカのアリゾナ州ATC(アリゾナテストセンター)にて、デビュー間近の4ドアセダンが長い道のりを走り出しました。2リッター水平対向DOHCターボエンジン「EJ20」の快音を響かせる4WDセダンの名は、「レガシィRS」。
その当時、1960年代から基本設計を変えずにマイナーチェンジやモデルチェンジを繰り返してきた既存車の旧態化と、それによる北米市場と国内市場での不振から、自動車メーカーとしての存続が危ぶまれてきた富士重工(現・SUBARU)が、再起を図るべく全力を注いで開発した、新世代の4WDスポーツセダンです。
「SUBARU」の名を世界に轟かせるべく、1988年4月に発足したばかりの「STI(スバルテクニカインターナショナル)」でしたが、この新型セダンの性能を証明すべく挑んだのが10万km走行での世界速度記録挑戦という大仕事で、いきなり大役を任されることとなりました。
結果、19日間連続で走りきったレガシィRSは、平均時速223.345km/hという当時の世界記録を達成、STIも初仕事を大成功させるとともに、「世界一の記録を作ったSTI」として、いきなりの大舞台でその名を轟かせたのです。
世界記録のみならず、WRCやレースといった「限界への挑戦」にはSTIの姿があった
その後もレガシィツーリングワゴンやフォレスターなどによる世界記録挑戦、1990年から始まったレガシィRSによるWRC(世界ラリー選手権)へのフル参戦といった場には、協力するパートナーとともに、常にSTIスタッフの姿がありました。
1990年には、イタリアのモトーリ・モデルニと提携してF1用水平対向12気筒エンジンを開発するも、そのエンジンを搭載して参戦したコローニF1チームが鳴かず飛ばずで、わずか半年で撤退する大失敗という憂き目にあい、WRCでも、ベテランの名手マルク・アレンをもってしても結果が出ないなど、当初は何もかもうまくいったわけではなく、世界の壁に悩まされます。
しかし、1993年にレガシィRSは最初で最後のWRC優勝、次戦より参戦したインプレッサWRXによる3年連続マニュファクチャラー部門チャンピオン獲得など、2000年代はじめまでのWRCで日本車が暴れまわった全盛期を、トヨタ セリカGT-FOURやカローラWRCで戦ったTTE(トヨタチームヨーロッパ)、三菱 ランサーエボリューションで戦ったラリーアートなどとともに駆け抜けました。
2008年を最後にWRCでのワークス活動は撤退しますが、同年にはニュルブルクリンク24時間レースへ、翌2009年にはSUPER GTのGT300クラスへレガシィB4で参戦(後にBRZへ更新)。
特にニュルブルクリンクは、初代インプレッサWRXの開発当時から走り込んでおり、市販車へのフィードバックへ最適なこのコースでの、STIを中心としたスポーツ部門によるラップタイム挑戦や24時間レース参戦は、走りを重視するスバルのプレミアムスポーツ性を高める上で、非常に重要な役割を果たしています。
ユーザーの心を震わせる「STIバージョン」
最初に登場したのは、初代レガシィツーリングワゴンの特別仕様車として、後には初代インプレッサWRXの特別仕様車として登場し、後にカタログモデルへ昇格するや、「並のインプレッサWRXとは異なるSTIチューンド」として、ストリートからモータースポーツまで大活躍し、多くのスポーツ派スバリストの心を熱くさせたのが「STIバージョン」です。
インプレッサやレガシィの他にもフォレスターへも設定され、ベースモデルと異なるチューンでより高性能を引き出したほか、トヨタ ラクティスのOEM車であるトールワゴン、トレジアにもSTIパーツが発売されました。
スバル市販車のカタログモデル(あるいは純正パーツ)として販売された関係で、必ずしも「STI=高性能」というわけではなく、スポーツイメージを高めるための内外装パーツなどドレスアップ、いわばSTIチューンならぬ「STIスタイル」に留まることもありましたが、スバリストにとってSTIの名が特別であることには変わりません。
近年では「WRX STI」として、WRX S4の高性能スポーツ仕様へ車名そのものにSTIの名が使われることもあり、スポーツ派スバリストにとっては「魂」にも等しいのがSTIの存在です。
STI独自の高性能版スバル車をコンプリートカーとして販売
販売はスバルディーラーで行われるものの、普通のスバル市販車やそのSTIバージョンとは別に、STI独自のコンプリートカーも数多く送り出されました。
最初は、1998年にWRCマニュファクチャラー部門チャンピオン獲得を記念して限定販売された「インプレッサ22B STIバージョン」で、初代インプレッサ2ドアクーペWRXタイプRをベースに2.2リッターへ拡大したEJ22改ターボエンジンを搭載し、ベース車と異なる前後ブリスターフェンダーによる迫力は、まさにWRカーのイメージを具現化したものです。
その後も2000年に初代インプレッサセダンWRXをベースとした「S201」で、日本自動車工業会の加盟メーカーでない利点を活かし、当時の280馬力自主規制を超える300馬力へチューンしたEF20エンジンを搭載。
以後、「STIスタイル」的な内外装ドレスアップやサスペンションチューンに留まるものから、S201同様にスバル本体とは別に「コンプリートカーメーカーとしてのSTI」としてレガシィやインプレッサ、WRXのSシリーズを数多く発売してきました。
目指すところは、「BMWにおける高性能車およびスポーツ部門、BMW M」だそうで、通常販売されているスバル車より高品質・高性能な車を、スバル本体とは異なる立場から開発し、スバルのプレミアムスポーツ性をより高め、世界へその名を轟かせる活動を続けています。
電動化時代で真価を問われるSTI
2021年現在、2030年以降は日本を含む多くの先進国でCAFE規制と通称される厳しい燃費規制を通らない車は販売が厳しく規制され、事実上、電動化されていないモデルの2030年代における新車販売禁止、あるいはより突っ込み、内燃機関を搭載した車の販売禁止にまで踏み込んだ時代が、目前に迫っています。
スバルも性能面ではともかく、環境性能への対応が難しくなった旧世代エンジンを捨て、新時代のダウンサイジングターボやマイルドハイブリッド、さらにフルハイブリッドやEVへと急速に切り替えていく必要性に迫られていますが、そうした新時代でもスバルが従来通りのプレミアムスポーツ性を維持できるかという課題がのしかかってきました。
無論、そうした限界へ挑戦する場には常にSTIの姿があり、今後も新時代のスバル車をチューンし、ユーザーの期待へ応え、スバル車の存続を賭けた戦いへ挑んでいくことでしょう。
単にコンプリートカーやスポーツパーツの開発を手掛けるのみならず、「スバルがその名を世界に轟かせるためのチューニングのため、最前線で腕を振るう」それがSTIの存在意義であり、設立以来、常に世界を舞台として戦い続けてきたSTIチューンの凄みであります。