カスタム・アフターパーツ | 2021.08.07
かつてターボ車の常識だったターボタイマーはエンジンの進化で失ったもの
Posted by KAKO MIRAI
80年代から90年代にかけて、「ターボ車にはターボタイマー」という時流がありました。アフターパーツメーカーからはさまざまなターボタイマーが販売されており、走り屋たちの必須アイテムだったのです。今ではあまり見かけなくなったパーツですが、一体どんなものだったのでしょうか。そしてなぜ無くなってしまったのか、エンジンの進化によって失ったもの、同時に現在のターボに必要なことは何かをご紹介していきましょう。
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ターボタイマーとは何か
ターボタイマーを知る前に軽くおさらいしたいのは、ターボチャージャーのこと。現在のダウンサイジングターボとは異なるターボチャージャーについて最初にご紹介しておきましょう。
エンジンの出力は、シリンダーに送り込む空気の量で決まります。燃料の燃焼は、最大出力当たりの空燃比が最も効率が良いとされているので、空気の量が一定量であれば燃料供給を増やしても出力が上がることはありません。
つまりシリンダー容積よりも大きい空気を圧縮し、エンジンに送りこむことができれば、排気量以上の空気を送り込めることになるでしょう。多くの空気を送り込むことで、出力は排気量以上にアップします。その役割を果たす装置が過給機です。
過給機の種類には、排気の流れる勢いを利用する「ターボチャージャー」とエンジンの力を利用する「スーパーチャージャー」があります。以前はそれぞれの過給機を搭載した車が多くみられました。しかし現在の主流はターボチャージャーといえるでしょう。
ターボチャージャーは、排気の流れで排気側に取り付けられた羽根車のタービンホイールが回転します。この回転運動によって吸気の流れが加速すると、空気が圧縮されて出力が向上する仕組みとなっているものです。
タービンの羽根車は、毎分10万回転以上といわれており、最高で900℃前後の高温にさらされるという過酷な使用状況です。そのためタービンの羽根車の冷却にはエンジンオイルを使用します。
エンジンをOFFにしたことで、エンジンオイルの供給はストップしてしまいますが、羽根車はすぐに回転を止めることができません。羽根車はしばらく回転し続けることになり、その間はエンジンオイルが供給されていないので、ターボ内の熱が行き場を失うことになるのです。
すると高温に耐えることができず、タービンが焼き付けや発火を招く危険性も出てくるのです。またタービンシャフト内でオイルが炭化してしまい、シャフトが固着したり、摩耗したりという原因にもなりかねません。
そのため走行終了後、アフターアイドルをせずにエンジンを停止してしまうことを避ける必要がありました。実際に自動車メーカーは取扱説明書や運転席の内側、サンバイザーなどに走行後は1~3分のアフターアイドルを行うことを明記しています。
しかし実際のところレースではターボの焼き付きなどがあるため、アフターアイドルをする必要はあったようです。しかし一般車両において、アフターアイドルを怠ったせいでターボが焼き付きを起こすことは、あまり例がなかったようです。
自動車メーカーの説明書にはアフターアイドルを推奨する説明もあったため、アフターパーツとして登場したのがターボタイマーです。エンジンをOFFにした後もエンジンが切れずにアフターアイドルをしてくれます。時間の設定が任意でできるため、走行状態に合わせて調整することができました。
ターボ車にとって、ターボタイマーはアフターアイドルを自動で行うことができる、当時としては優れもののパーツです。多くの人が取り付けて、大いにその恩恵を受けていたことはいうまでもないでしょう。
ターボの進化系ダウンサイジングターボ
今も昔もターボチャージャー自体に変わりがあるわけではありません。基本的な構造は同様となっています。しかし、ダウンサイジングターボとして登場した内容は大きく変わっていました。
昔のターボチャージャーの性質として重要視されてきたのは、パワーとトルクとスピードです。つまり、車をいかに速く走らせることができるのかを追求した加速装置でした。
ダウンサイジングターボでも排気のエネルギーを使用することで、タービンを作動させます。過給機として高い熱効率によって高出力や高効率を発揮させることに変わりはありません。
しかし、使用されるエンジンは小排気量化して、足りないパワーをターボチャージャーで補うというものです。そのためダウンサイジングターボでは、運転した体感ではNAと区別をつけることができないほど滑らかなものになっています。
ターボ=ドッカンターボで育ってきた世代にとっては、かなり異なる印象のターボといえるでしょう。ドッカンターボはエンジンの回転数が一定を超えると急激な加速を体感できるもの。
ターボが効くまでには少し時間がかかり、その間のことをターボラグと呼びます。一旦ターボが効き始めると急激なパワーと加速感を体感できるのです。そのギャップの大きさからドッカンターボと呼ばれていました。
少しシートに押さえつけられるようなパワフルな加速感は、魅力的なものだったといえるでしょう。一旦は姿を消したターボチャージャーでしたが、ダウンサイジングターボとして蘇りました。それは小型化されたエンジンに取り付けられることを目的とした過給機です。
技術の進歩によって小型のターボチャージャーが開発され、低い回転数からでもパワーを発揮することに成功しています。主流となっているのは直列3気筒~超列4気筒。排気量1,000㏄~2,000㏄です。どのくらいのパワーかというと同程度のNAエンジンの約1.5倍から2倍のスペックを期待することが可能です。
環境性能への配慮としては、低い回転数からターボが効くことによって、アクセルを踏み込むことなくパワーを得ることができるので、エンジン回転数を減少させることができました。また使用する燃料を削減し、低燃費を実現しています。
ターボタイマー不要説
さて、ターボチャージャーの目的も使用方法も、昔とは違うターボチャージャーです。ターボタイマー自体、もはや必要のない装置になりつつあることは理解できるのではないでしょうか。現代では、アイドルストップを推奨されている世の中になっていることは周知の事実です。
またターボチャージャーを昔と比較すると、新素材が開発され、コンピュータ制御の緻密さが以前とは比較にならないほど進化しており、ターボラグを解消されました。また低い回転数からでも太いトルクを得ることもできます。
そして何よりもタービンシャフトが改良されており、ボールベアリングの軸受けと変化しました。エンジンオイルによる潤滑のみに頼ることのない水冷を併用するターボへと進化。
つまりアフターアイドルは、基本的には必要がなくなっているといえるでしょう。
それはレースの世界でも同様で、『SUPER GT』や『耐久レース』のレギュレーションには、「ピットで車両を停車する際にはエンジンを停止すること」と記載されています。過酷なレース車両でもアフターアイドルをする必要性はなくなっているのです。
一般車が高速走行をする場合には、ターボにかかる負担は大きくなると思われがちですが、意外にも回転数は低いもの。走行風がラジエーターに当たるので、クーリングする程ではありません。
エンジンが進化しターボチャージャーも新たに開発されたことで、アフターアイドルの必要性は今では必要なくなったといえるでしょう。
アフターアイドルのほかに重要なことはオイル交換
以前のターボチャージャーでは、ターボタイマーを設置し、アフターアイドルをすることでターボチャージャーを労わる努力が必要でした。現在ではターボチャージャーが進化したダウンサイジングターボとなり、アフターアイドルをする必要もなくなっています。
ターボチャージャーの構造は今も昔も変わらないもですが、さまざまなパーツの進化や、オイルに頼らない冷却などによって、改善されているといえるでしょう。しかしターボチャージャーは高温にさらされた過酷な状況下にあることは間違いのない事実です。
そうなるとオイルの使用状況は更にシビアな状況下にあるのかもしれません。実際に欧州車のダウンサイジングターボでは「LSPI(ロー・スピード・プレ・イグニション)」と呼ばれる「低速回転高負荷」が起こります。これは低速で異常着火する現象のこと。
ダウンサイジングターボは、燃焼室に煤であるスラッジがたまりやすくなるのです。それによってタイミングチェーンが伸び、不具合を起こすことにつながります。そのため最近ではエンジンオイルでこの問題を解決できるものが2018年から登場しました。
「SNPLUS」規格のエンジンオイルです。また2020年には「API-SP規格」も登場しタイミングベルトの伸びの防止を加えたオイルも登場しています。昔はアフターアイドルのためにターボタイマーが必須でしたが、ダウンサイジングとなった今では、こまめなオイル交換が必須といえそうです。
まとめ
パワーのみを追求したターボチャージャーは形を変えています。ダウンサイジングターボの普及により技術の進化によって、低回転から過給を掛けやすくなったターボが誕生。パワーと同時にレスポンスの良さを手にしています。
昔のようなパワーを追求したターボチャージャーは無くなり、いつしかターボタイマーも必要な存在とはいえません。幅広い回転数でフラットなトルクを手に入れたターボは、アフターアイドルを重視された時代から、オイルを重視する時代へと変わってきています。
愛車を労わる気持ちは、昔も今も同じです。今後はオイルに注意を傾けることになるのではないでしょうか。
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