カスタム・アフターパーツ | 2021.06.11

サーモスタットとは何か?どのような役割がある?

Posted by 菅野 直人

最近の自動車用エンジンは、ほぼ全てと言ってよいほど水冷式ですが、水でエンジンの温度調整を行う水冷式エンジンで重要なのが「サーモスタット」と呼ばれる装置です。仕組みはごく単純ですが、ウォーターポンプとサーモスタットによる適切な水の循環による温度管理で、エンジンは環境と性能を両立した燃焼を可能にしています。

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空冷エンジンには、なかなか真似ができない「サーモスタットによる温度管理」

一般的に、自動車用の内燃機関(いわゆる「ガソリンエンジン」や「ディーゼルエンジン」)には冷却フィンで放熱し、あるいは走行風でも冷やす「空冷式」と、エンジン内部を循環させる水で温度を調整する「水冷式」、おおむねこの2つに分かれます。

水冷式エンジンは、エンジン内部を通って熱を回収、熱くなった冷却水をラジエターで冷やし、またエンジン内部へ…というサイクルを繰り返すため、「どうせ冷却水を空気で冷やすのであれば、最初から空冷エンジンでよいだろう!」という考え方も、昔はありました(代表的なのがホンダ1300の強制空冷エンジン)。

実際、ポルシェが1993年に登場した993型ポルシェ911まで空冷エンジンを使っていたように、空冷エンジンならではのメリットがないわけではありませんが、そのポルシェでさえ、結局は水冷エンジンへ転換するなど、今やほぼ全ての自動車用内燃機関が水冷式と言ってよいと思います。

なぜ水冷式が絶対的主流になったかと言えば、走行風なり、強制冷却ファンなり、結局は風まかせ、細かい温度制御がしにくい空冷式に対し、水冷式は空冷よりはるかに効率よくエンジンの熱を吸収できる上に、ラジエターでの冷却効率も高く、しかも冷却水の循環を制御することで、エンジンの温度管理が非常にやりやすいためです。

エンジンの温度管理が適正に行われない場合、過熱による熱膨張でエンジン内部で部品の精度が保てず、エンジンオイルが燃焼室に回ってオイルの消耗や排気ガスの清浄化にも影響を与えますし、燃焼温度を適切に保ちにくいため、十分な性能発揮が難しく、やはり排ガスへ有毒な不純物が混ざりやすくなります。

水冷式はキメ細かい制御でエンジンの温度管理を行う能力に優れ、性能と環境の両立を果たすには欠かせないメカニズムとなったほどですが、冷却水の循環を担うウォーターポンプや、冷却水を冷やすラジエターと並ぶ部品で、「エンジンの冷やし加減」を調整するバルブによって、小さく簡素ながら、エンジンの温度管理でもっとも重要な役割を果たすのが「サーモスタット」です。

仕組みは単純、「冷たければ閉じ、熱くなれば開くバルブ」

非常に重要な役割という割にはサーモスタットそのものは単純な作りで、エンジンが冷えており、冷却水の温度も低い状態であれば閉じて、温度が高くなれば開くバルブに過ぎません。

エンジン始動直後、暖気が必要な場合はサーモスタットのバルブが閉じているため、エンジンの冷却水はラジエターへ向かわずエンジン内部のみで循環し、早くエンジンが温まるようになります。

エンジンが温まると、もっとも多いパターンではバルブ内部のワックス(ロウ)が溶けて膨張し、バルブを押し開くことで、ラジエターを含む冷却水の循環を始めて、今度はエンジンの温度が上昇しすぎないよう、エンジンを冷やし始めるわけです(バルブの開閉には電気式を用いる場合もあります)。

他に暖機運転を短くするための仕組みとしては、電子制御エンジンであれば「アイドルアップ」、電子制御以外のエンジンであればチョークと呼ばれる部品で、燃料を濃くして燃焼温度を上げる方法もありますが、それらが燃焼によって温度を上げるのに対し、サーモスタットは冷却水の効果を抑制する事で、暖気を早めます。

冷却効果を上げたい時は、スポーツ用のサーモスタットを使ったり、撤去する

以上は一般的な自動車の話で、バルブが開いて以降は、そのエンジンの特性に合わせた冷却水の流量を確保するように設計されていますが、バルブがある以上は確保できる流量にも限りがあります。

そこで、モータースポーツ用途など特殊な環境では「ローテンプサーモ」あるいは「スポーツサーモ」と呼ばれるスポーツ用のサーモスタットがありますが、これは早めにバルブを開ける事で基本となる水温を下げたり流量を増やすことで、エンジンにとって熱的に厳しい環境でも過熱を防ぐパーツです。

さらに暖気運転や、エンジンが温まらないことでの不具合を起こす「オーバークール」を考慮しなくてもよい環境であれば、そもそもサーモスタットを装着せず、その冷却配管とウォーターポンプの容量で可能な限りの冷却を行うことさえありますが、かなり特殊な例のため、一般ユーザーがそうした選択肢を考慮することはそうそうありません。

消耗品のため経年劣化による能力低下もあり、交換は必須

頻度が少ないとはいえ、繰り返しバルブを開閉する以上はいずれ経年劣化によるバルブのヘタリで正常な能力を発揮できなくなり、バルブが閉じないため冷却過剰で暖気運転に時間がかかるようになったり、逆にバルブが十分に開かず、ウォーターポンプや配管へ負担をかけて冷却水漏れ、あるいはオーバーヒートの原因になったりします。

一般論として、10年10万kmを目安に交換した方が良いとされており、部品単体では2,000~3,000円と安価ながら、パッキンや抜ける冷却水の交換、そして工賃で、合計5,000~8,000円程度の費用を見込んでください。

一応はDIYで自ら交換できるほど単純なパーツではありますが、近年の車ではエンジンルームに余裕がない上、奥まった場所の部品のため、素人が軽く手をつけても問題ない部分とは言えず、他にウォーターポンプや配管の点検、場合によってはそれらの交換も伴うと考えた場合、よほど自信がある人以外はプロに任せるのが無難です。

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