カスタム・アフターパーツ | 2021.05.11
フェイススワップってどうなの?やる前に考えたいメリットやリスクについて
Posted by 菅野 直人
ドレスアップといえば、通常はベース車にエアロパーツやワイドボディキット、オーバーフェンダーなどを装着あるいは加工するものですが、それだけでは足らずに、車そのものの姿カタチを変えてしまうことも多々あります。それでもイチからオリジナルで起こすと大変なため、多用されるのが、他車のフロントマスクを移植する「フェイススワップ」です。これまでの定番の実例や、そのメリット、リスクを説明します。
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どんな組み合わせがあった?昔から定番の「フェイススワップ」
自動車のドレスアップ手法で、フェイススワップと呼ばれるものが日本でも広まったのは、おそらく1990年代に入ってからではないでしょうか。
それ以前にも行われていた例はあったはずですが、何しろ純正エアロパーツでさえも1980年代半ばまで認められず、規制緩和でチューニングやドレスアップが手軽にできるようになったのが1990年代半ばであったため、一般的にはなりませんでした。
初期の定番車種として有名なのは日産・180SX(ワンエイティ)のフロントへS13シルビアのフロント周りを移植した「シルエイティ」(フロントがシルビアで、リアがワンエイティだから)でした。
これは、そもそもS13シルビアの北米版「240SX」が、その当時の保安基準によりヘッドライトの形状や位置(高さ)に制約があったため、リトラクタブルヘッドライトを採用した顔違いで、日本でもハッチバッククーペ版が180SXとして販売されていたほか、フロント部分は外装を除けば両車とも全く同じ構造で、移植が容易だったためです。
さらに、ドリフト大会や人気漫画「頭文字D」への登場で一気にメジャーになっていき、ついには、中古車ベースで純正部品を使って仕立て直した日産公認の正規版「シルエイティ」が限定販売されたほか、逆にS13シルビアへ180SXのフロントを移植した「ワンビア」も登場し、両車とも中古車市場では数多く販売されています。
これで一気に市民権を得たフェイススワップは車種を拡大していき、シルエイティがS13シルビアのみならず、S14やS15のフロントを180SXへ移植するようになり、構造の違いや全幅などサイズ違いも加工で乗り切るようになっていきました。
当時の例でも、日産・WC34ステージア(初代)へR34などスカイラインのフロントを移植した「スカージア」や、トヨタ・70スープラへZ20ソアラ(2代目)のフロントを移植した「ソープラ」といった、シルエイティ同様に構造が同じ、または似た車種の移植例が増えたほか、トヨタ・初代エスティマへ初代セルシオのヘッドライトやフロントグリルを移植した「セルティマ」といった、サイズや車格どころかジャンルを超えた移植例でさえも登場しています。
また、ミラ・ウォークスルーバンにミラTR-XX、アルト・ハッスルへアルトワークスのフロントを、ターボエンジンへ載せ替えるついでに移植など、1990年代末から2000年代にかけては、あらゆる車種で移植例が出てくるドレスアップの定番手法になりました。
最大のメリットは「個性」の大胆な表現
現在でも、Z34フェアレディZへトヨタ・86の、20系セルシオへ現行センチュリーのフロント移植など、様々な例がありますが、フェイススワップの最大のメリットといえば、ドレスアップするにしてもベースを大胆に変えてしまうことで、より個性を強調できる点でしょう。
何しろ自動車のデザインは、ある程度以上に完成されているため、どれだけ大胆なドレスアップをしたところで、ベースのデザインが同じであれば、「○○のドレスアップカー」とすぐわかりますし、ベース車の素性が評価について回ります。
さらに、車によってはドレスアップしやすい車、ヘタにドレスアップなどするとバランスを崩し、かえってカッコ悪くなる車、そもそも車体形状やデザインの問題でドレスアップそのものに向いていない車もあるため、どうしても似たような車で似たようなドレスアップが流行ることになってしまい、個性という意味では今一つでした。
そこで、ベース車に他車、場合によっては、メーカーもジャンルも異なる車のフロントを移植することで、「本来であれば、ありえないデザイン」を実現してしまい、さらにそこからドレスアップすることで、より個性を強調できるのが魅力です。
しかも、フェイススワップ車は、「前からAという車が来たと思っていて、通り過ぎる時に気になって振り返ったら実はBという車だった!」というインパクトもあり、見る者に驚きを与えるという効果は非常に高いと言えます。
年々高まるリスクと、フェイススワップが似合う車の減少
しかし、今もなお隆盛を極めているとはいえ、フェイススワップは年々難しくなる傾向にあるのは間違いありません。
理由としては、第一にデザインで、ミニバンやトールワゴン、SUVといった流行車種は、デザインの流行や空力性能の要求で、フロントマスクとテールランプ周りを隠すと見分けがつきにくいほど似たような車が増えてしまいました。
このような車では、単純に他車のフロント周りを移植しても「似たような車」になってしまうため、よく説明すれば「あ~なるほど」とは思うものの、そこまでしないとわからないフェイススワップではあまり意味がなく、かつての「セルティマ」くらい大胆な手法が求められて高価になってしまいます。
さらに、近年では安全運転支援装備のため、さまざまなセンサーが搭載されるようになり、特にフロントグリル付近に搭載されることが多いミリ波レーダーなど、純正デザインにも多大な影響を与えているため、フェイススワップでも当然問題となってきます。
今までの車はともかく、2021年11月以降に販売される車は、いわゆる「自動ブレーキ」が義務化されることもあって、将来的には「旧車じゃないとフェイススワップもままならない」ということになりかねませんが、当然ながらフェイススワップ向きの車が年々減っている現状では、たとえば10年後にベース車を探すだけでも一苦労になるかもしれません。
そもそも自動車自体が国民の平均所得に対して「ちょっとどころじゃなく高い買い物になってしまった」という現状で、車の所有自体が現在もどんどん減っているため、フェイススワップどころか、カスタムカー市場自体の将来像はあまり明るいものではありません。
それでも今であれば、大胆なフェイススワップをはじめ、カスタムカーを楽しめる時代がまだしばらくは続いているため、現在ドレスアップを楽しめる環境にあるユーザーは、これもそういう時代を生きた者の特権と思って、今のうちに思いっきり遊んでしまいましょう!