旧車・絶版車購入ガイド | 2019.12.12
まだ間に合う!プレミア商品になりつつあるホンダ「S2000」を確保する!
Posted by 菅野 直人
今ではほとんど見られなくなったFRスポーツ。1980年代末以降の日本車黄金期と呼ばれた時代には世界に誇れる車がたくさんありました。その中でもとくに印象的かつ衝撃的だったのが1999年発売のホンダ「S2000」でした。ホンダが久々に繰り出したFRオープンスポーツも販売終了から10年以上経ってしまいましたが、現在中古車で購入しようと考えた時のポイントや注意点をご紹介します。
以下の文中の買取査定額は、投稿日時点での目安になります。実際の査定額については相場状況や車両の状態によって大きく変動しますので、あくまで参考金額としてご覧ください
ホンダ・S2000とは
1963年、四輪車市場へ参入したホンダは、その最初のモデルとして軽トラックのホンダ「T360」のほか、なんとオープンスポーツのホンダ「S500」を売り出しました。
四輪車市場に参入した1960年代は多数の“ホンダS”が存在しました。軽自動車だけじゃなく小型車の販売実績も作りたかったためお蔵入りとなったホンダ「S360」、小型車第1号作のS500、レースでも活躍したホンダ「S600」とその発展型ホンダ「S800」や「S800M」、“ホンダS”は当時参戦していたF1レースとともに、ホンダのスポーツイメージを大いに高めたものです。
しかし当時の日本国民にとってはスポーツカーはおろか、マイカー自体が高嶺の花。会社から渡された営業用のライトバンで通勤し、休日の私用を黙認されることでかろうじてマイカーらしきものを使えていました。そういった文化が残っていた1980年代まで庶民が誰でもマイカーを持てるという時代ではありません。そのような時代背景もあり、初期の“ホンダS”は商品というよりホンダのイメージリーダーだったのです。
ホンダは1970年頃“ホンダS”の生産を終了し、環境やスペース効率を重視した車づくりに転換しました。当時の『真に快適な、価値ある車をすべての方へ。』のキャッチコピーからもマイカー普及を目指していたことがわかります。そんなホンダですが大衆車を作りながらも走る楽しみやスポーツやレースというイメージは無くさず1980年代末からの日本車黄金期には大衆車をベースにしたホンダ「シビックSiR」やホンダ「インテグラ・タイプR」など優れたFFスポーツを輩出していました。
1990年代、ホンダの主力はミニバンやSUVでそのラインナップや販売台数から「ミニバン屋のホンダ」と言われることもありました。一方、当時はマツダ「ユーノス・ロードスター」が再燃させた「ライトウェイトスポーツ」が市場に出回り、世界の自動車メーカーが注目していました。もちろんホンダファンからも“ホンダS”を想い起こされるような気合の入った本格FRスポーツを求める声があり、ホンダも意識していました。
“ホンダS”の復活が現実となりそうになったのは1995年でした。バブル崩壊の余波でズタズタになっていた販売体制や車種ラインナップを、ホンダ「オデッセイ」やホンダ「ステップワゴン」、ホンダ「CR-V」といったミニバンやSUVでようやく立て直して一息ついた頃、第31回東京モーターショーへ「SSM」というコンセプトカーを出展しました。
2.0リッター直列5気筒DOHC VTEC自然吸気エンジンを積んだオープンスポーツの登場でファンは「今度こそSシリーズの再来!」とにわかに活気づきました。そしてついにSSMのコンセプトを元にしてホンダ創立50周年企画としてFRスポーツ「S2000」を発表、1999年4月に29年ぶりに復活したリアルFRスポーツとして発売されました。
搭載された2.0リッター直列4気筒DOHC VTEC自然吸気エンジン「F20C」は環境基準を満たしつつ自然吸気ながら250馬力を発揮する素晴らしいエンジンでしたが、超高回転で高出力と大トルクを生み出す特性は非常にピーキーで乗り手を選び、かつフルオープンでも十分な剛性を稼ぐボディはオープンカーとして開放感に欠けるという指摘もあり、販売面ではヒット作と呼べなかったものの、2009年に販売終了するまでの10年間で、ホンダのイメージリーダーとしての役割を十分に果たしています。
S2000は大きく分けて、初期の高回転高出力モデル「AP1」型と、2005年11月のマイナーチェンジ以降に販売された、排気量を2.2リッターに上げて余裕をもたせ、扱いやすさを向上させた「AP2」型の2種類が存在し、腕に自信があるドライバーなら乗りこなす楽しみのあるAP1型、実用的で乗りやすさを求めるドライバーならAP2型、どちらを選ぶかは考え方次第だと思います。
S2000の中古車相場
大手中古車検索サイトによると、2019年11月現在のS2000の中古車相場は以下の通りです。
前期型AP1 (販売期間1999年4月~2005年11月) |
88万円~498万円:131台 その他ASK(価格応談):6台 (新車価格:338万円~388.5万円) |
後期型AP2 (販売期間2005年11月~2009年9月) |
172.2万円~753万円:75台 その他ASK:2台 (新車価格:378万円~399万円) |
「日本車黄金時代」の車としては末期の比較的新しい車です。新車価格を超えるプレミア価格で販売されているケースもかなり多く、その内容はAP1とAP2でだいぶ異なります。
AP1はエンジンや足回りにまで手が入って外観もかなりレーシーな「今すぐ使える改造車仕様」がチューニングコンプリートカー的な人気を得ている一方、AP2は「ワンオーナー車やフルノーマル車、禁煙車で走行距離も少なめの車」にプレミアがついており、両車が同じS2000でもユーザーから求められる価値観、市場から期待される方向性に大きな差がありそうです。
中にはAP2で無限製やモデューロ製のエアロパーツを装着していながら「走行距離230kmの未使用車」などというとんでもない車が販売されており、その753万円という価格に驚きつつも、せっかくのFR本格スポーツですから、さらに価値が上がるまでしまいこむより、存分に走らせてやりたい気持ちが湧いてきます。
S2000のオススメグレード!腕と整備環境に自信があるならAP1のベースグレード
S2000のグレード構成はシンプルです。2000年7月に「タイプV」が追加され、2007年10月にタイプVへ代わって「タイプS」が設定された程度ですが、同じグレードでも時期により細かな変化が生じています。以下に主な変化を時系列でまとめます。
1999年4月:AP1発売。2.0リッター「F20C」搭載の「ベースグレード」のみ。
2000年7月:VGS(可変ギアレシオステアリング)を持ち足回りが若干ソフトになった「タイプV」追加。
2001年9月:リアスクリーンにタイマー付き熱戦入りガラスが入り、ベースグレードの足回りもソフト化。
2003年10月:フロントバンパーで独立していた左右ダクトが中央開口部へまとめられる。ボディ剛性を強化し足回りはさらにソフト化。ミッション素材変更でシフトフィール改善。
2005年11月:2.2リッター「F22C」エンジンに変更、型式AP2へ。最高出力は250馬力から242馬力へ下がるが最大トルクは増え、発生回転数もそれぞれ下がり扱いやすい特性へ。
2007年10月:ABSとトラションコントロール、横滑り防止装置を電子制御するVSA追加。タイプVに代わって空力面と足回りセッティングから高速安定性と操縦性を向上させた「タイプS」追加。
S2000はフルノーマル状態でかなりカリカリに煮詰めたリアルスポーツだったこともあり、デビュー当初から期待された過激な性能を持つ「タイプR」はついに設定されなかったというか、はじめからS2000自体がタイプR的な車だったといえます。
オススメグレードとしてはどんな用途で使用するかにより、「スポーツ走行するほどではないが、カッコイイスポーツカーで気軽に流したい」というオープンカーらしい用途なら、「ロック to ロック1.4回転とクイックステアリングゆえに日本の道でも取り回しが楽で、高速時はドッシリ落ち着いたハンドリング」のタイプV。それも扱いやすいAP2のタイプVがよいでしょう。
「リアルスポーツらしく、サーキット走行やジムカーナも含めガンガン走りたい!」という場合にはベースグレードやタイプSがオススメですが、日常的な走行とどちらの割合が多いかでも変わってきます。街乗りや長距離走行が多いなら運転が楽なAP2や、その末期に追加されたタイプSが向いていますし、とにかく腕に覚えがある、あるいはこれから腕を磨くというなら、ピーキーな特性は承知の上で絶対的な性能が高いAP1のベースグレードです。
ただし、後述するようにAP1でスペックをフルに発揮するような運転をするにはレーシングカーを維持するような心構えが必要なため、それが可能な環境であることが条件となります。
なお、AP1時代の2002年10月には、ゴールドピンストライプ付きのボディカラーに専用のタン内装を組み合わせて内外装の質感を高めた特別仕様車「ジオーレ」がベースグレードとタイプV双方に設定されていますが、前述の理由によりジオーレのような内装を求める人が選ぶならタイプVでしょう。
S2000の中古車選びの注意点
最初からタイプR的な作り方がされている本格FRスポーツのS2000ですが、それゆえに公道を通常の速度で走らせる範囲内でもかなり運転を楽しめる反面、公道では味わえない領域まで走りを楽しんでみたい!という欲望を生み出す車でもあります。
しかし、実のところS2000は設計によほど余裕がないのか、公道走行の範囲内では壊れない程度までコストダウンして購入しやすくしているということなのか、「非常によく壊れる車」としても知られており、前項で書いた段階的な変更は、単に乗りやすくしたり乗り味をよくするだけでなく、壊れにくくするための配慮では?と思わせる部分が多々あるのです。
その最たるものはAP1のF20Cエンジンで、フルノーマル状態のままカタログスペックをギリギリまで引き出すような運転、つまり最高出力発生回転数の8,300回転を超え、シフトアップしてもパワーバンドへ入れるべくレブリミッターの9,000回転まで回すような、あるいはシフトダウンでそこまで回転が上がるような運転をしていると、市販車用エンジンにあるまじき勢いで壊れます。
ある例では走行1万kmごとにオーバーホールやエンジン交換が必要だと言われるほどで、エンジンブローを回避するには軽量ピストンへの交換やエンジンのみならずミッションやデフも含めた徹底したオイル冷却と管理、エンジン冷却や駆動系の負荷低減などが求められ、要するに「カタログスペックはノーマルでも頑張れば出る数値で、本気でそこまで性能発揮しないように」というのがノーマルF20Cの実情のようです。
S2000、特にAP1の中古車で改造車やコンプリートカーの方が高価なのは、ある程度それらの改善がなされた車だからと考えてもよさそうで、AP1を購入したままの状態で乗ろうと考えている人は、安価なノーマル車へ安易に手を出すことはオススメしません。それらはあくまで「チューニングベース車」くらいに考えてください。
AP2で排気量を上げ、レブリミットも8,000回転へ下げて低中速重視仕様としていることと無縁ではなく、ノーマル車をそのまま乗りたいと考えている人は、AP2を選択した方がよいでしょう。
他にもフロントロワアームの破断、フロントアッパーアームのボディ側ブラケットの損傷などは、段階的にサスペンションがソフトになっている理由のひとつと思われ、リアブレーキの容量不足とともに、「ノーマルのS2000はあくまで雰囲気を楽しむ車」程度に考えて、それ以上を求める人は最初から改造車を買うか、購入してすぐ対策品への交換などに努めるべきです。
また、特にAP1でエンジンブローや故障発生後、シビアに性能を追い求めるため細心の注意をはらってメーカーやショップで組まれたエンジンへ換装しているならばよいのですが、根本的にその種の作業が不慣れなディーラーでオーバーホールした整備履歴がある中古車の場合は、購入を避けるか安く購入して浮いた予算で一度バラし、組み直した方が良いでしょう。
S2000の中古車の維持費目安
前項で書いたようにAP1とAP2では外観こそほとんど変わらないものの実質的に別車と考えてよいほどの違いがあり、AP2は普通に街乗りしている分には問題ありませんが、AP1はF20Cエンジンを壊さないよう慎重なオイル管理が求められるうえに、高性能エンジンの常として非常にオイル食いでもあるため、ガソリン同様オイル代もそれなりに見込んだほうがよいでしょう。
それを除いた維持費としては、故障でも起きない限り駐車場代、タイヤやオイルなど消耗品代、ガソリン代に車検代と税金くらいですが、まず自動車税から。
2005年11月まで販売されていた2.0リッターのAP1は全て初年度登録から13年が経過していますから重加算税の対象で、総排気量1.5リッター超2.0リッター以下の45,400円。2.2リッターのAP2は2009年9月まで販売されていたため13年以下と13年超に分かれ、2.0リッター超2.5リッター以下で通常45,000円、重加算税対象だと51,700円となります。
燃費はAP1でもAP2でも実燃費が10km/L前後なので、2019年11月現在のハイオクガソリン平均価格が約153円程度、仮に月1,000km走るだけならば月15,000円程度のガソリン代がかかり、年間のガソリン代が約18万円に自動車税45,000~51,700円を合わせ、最低22~23万円程度が最低年間維持費の目安でしょう。
その他、駐車場代やタイヤ代、車検代や整備代、任意保険代などはユーザーの環境次第なので、AP1のオイル代も含め、購入後にどのような維持費がかかるからは各自計算してみてください。ともかく壊れさえしなければ大げさな維持費がかかる車ではないので、特にAP1を購入する際は多少予算をかけてでもトータルコストでは安く上がると考えましょう。
また、販売台数が少ない車の割には盗難件数が多い傾向にあるようで、セキュリティや車両保険などでの対策に予算をかけるのも重要です。