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コラム | 2022.03.05

トヨタの名作、V型12気筒エンジン「1GZ-FE」は何がすごかったのか?

Posted by 菅野 直人

トヨタのみならず、国産乗用車全ての頂点に立つ真のフラッグシップ・モデルと言える高級セダン「センチュリー」には、1997年から2017年まで販売された2代目モデルに、V12エンジン「1GZ-FE」を搭載していました。 バス用ディーゼルエンジンを除き、国産乗用車では唯一、そしておそらく最初で最後となるであろうV12エンジンの何がすごかったのか、考察してみます。

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かつてはスーパーカーの象徴、V12エンジン

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そもそもV12(V型12気筒)エンジンは、第2次世界大戦までは航空機用レシプロ(ピストン)エンジン、戦後はレーシングカーやスーパーカーで多用されていたエンジン形式で、ホンダがF1第1期から1.5リッターV12エンジンを使うなど、高性能エンジンでは定番でした。

一方、直6(直列6気筒)エンジンと並び、理論上はレシプロエンジンのピストン運動に付き物な振動を、完璧に封じることができる形式としても知られていましたが、部品点数の多さ、重量増大、直6より幅広くなるため、エンジンルームのレイアウトに制約が出るという問題もありました。

そのため、V12エンジンを採用したスーパーカーでもミッドシップへの横置きを強いられたり、重いエンジンをミッションの上に配置して重心が上がってしまうなど、フィーリングや排気音の良さとは裏腹にデメリットも多かったのです。

そのため、真の高性能モデルはV6~V8が多くなっていき、ターボや可変バルブ機構の採用も拍車をかけ、いつしかV12はスーパーカーの中でもラグジュアリー的な性格が強い高級モデル向き、高性能モデルへV12を頑固に採用し続けたのはランボルギーニくらいでした。

1980年代後半にドイツ製高級乗用車へも搭載

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そんなV12エンジンにとって最初の転機となったのは1987年で、BMWが2代目7シリーズへ戦後ドイツ車初のV12エンジンとなる、5リッターV12搭載車750iとロングボディ版750iLを発売。

それを見たメルセデス・ベンツも、1990年に発売した3代目Sクラスへ6リッターV12エンジン搭載車、S600を投入します。

それまでの高級車用エンジンであったV8より圧倒的にスムーズで、直6より大排気量、大出力、大トルクを実現できるV12エンジンは豪華なイメージを与え、大きい、重い、部品点数が多く高コストという問題も、高級セダン向けのためあまり問題になりませんでした。

日本でもバブル時代を境に定着し、人気の高級ブランドとなった両社のV12エンジン採用が、国産車メーカー、特にトップメーカーであるトヨタを刺激したのは間違いありません。

当時の国産乗用車用エンジンは、高級車でも主流は直6かV6、1960年代にプリンス(発売時は吸収合併後で日産)が開発した6.4リッターV8エンジン搭載の皇室向け御料車「プリンスロイヤル」が最大で、1990年頃でも4リッター級V8エンジンが最高級モデル用でした。

1989年に発売したトヨタ セルシオ(初代レクサスLS)も4リッターV8でしたし、初代センチュリーなど1967年発売当時からの「V系」V8エンジンを改良しながら搭載し続け、1997年まで30年も販売していました。

唯一、マツダだけは最高級ブランド「アマティ」用にW12(W型12気筒)エンジンを開発していましたが、バブル崩壊で幻に終わっています。

あのタイミングでしかありえなかった、「V12エンジン採用」

BMWとメルセデス・ベンツのV12エンジン搭載車を横目にしたトヨタが、「日本を代表する最高級ショーファードリブン(運転手つきの高級車)に、V12エンジンを採用したい」と思っても不思議ではありません。

幸い、センチュリーが2代目へとモデルチェンジしようとする頃、衝突安全基準の強化でクラッシャブルゾーンを確保すべく、全長が短いV6エンジンへ取って代わられる以前の大排気量直6エンジン、「JZ系」がトヨタにはまだ残っていました。

直6のJZ系をV型に並べ12気筒化した「1GZ-FE」はこうして生まれ、1997年にモデルチェンジした2代目センチュリーへ搭載されたのです。

しかし、そのタイミングはなかなか際どいものでした。その頃、ドイツ製V12エンジン搭載車は「環境破壊エンジン」と名指しで批判され始めており、ドイツ本国でも公用車としての採用には二の足を踏む状態で、ただ威厳を示すための大排気量V12エンジンは不要、という風潮が広がっていたのです。

1997年とは、トヨタにとっても画期的な環境対策車である、ハイブリッドカー「プリウス」初代モデルが発売された年で、「21世紀に間に合いました」と言っているそばで、大排気量でガソリン食いの5リッターV12エンジンですから、何とも締まりません。

しかし、発売直後であったハイブリッドカーの行く末はまだ不透明、排気量を下げたV6や直4エンジンをターボで補う「ダウンサイジングターボ」も登場していなかったため、まだかろうじて「最高級車用のエンジンであれば…」と、V12エンジンが許された、最後の時期でした。

したがって、「憧れのV12エンジンを開発・販売できた最後のタイミング」に滑り込んだ、という意味で、トヨタ1GZ-FEはものすごい幸運に恵まれたエンジンだったかもしれません。

何しろ2代目センチュリーと、皇室向け御料車センチュリーロイヤルにしか採用されず、高級ブランドのレクサスには搭載する噂さえなかったほどで、2006年に発売した4代目LS(日本では最初のLS)ではさっさとハイブリッド化してしまいました。

それは1GZ-FEがセンチュリー用の特別なエンジンだったというわけではなく、技術の進歩によって、V8エンジンでも十分に高性能なまま静粛性や振動の問題をクリアできていたためで、「1GZ-FEは、登場時点で既に時代遅れで不要なエンジンであった」とも言えます。

時代遅れではあったが、国産エンジンにとってひとつの到達点

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結果的に時代遅れで無用な長物、トヨタの自尊心を満たすための自己満足となってしまった1GZ-FEでしたが、最高出力こそ登場当時の国内自主規制値である280馬力止まりとはいえ、5リッターエンジンだけあり、最大トルクは1997年当時で49.0kgmもありました。

おそらく280馬力はあくまで公称値、実際には300馬力級の出力があったとみられますが、車重が最大で3tを超えるセンチュリーロイヤルでも軽々と走らせる大トルクは大したものです。

筆者は、リヤデフ直結とフルバケットシートなど安全装備、内装を剥がした軽量化のみのフルノーマル状態の2代目センチュリーのドリ車が、猛烈な太いトルクのみで強引にパワードリフトをキメるのを目の当たりにしたことがあります。

低速セクションから轟然と加速し、ヘアピンコーナーでタイヤスモークを巻き上げながらヒラヒラと舞うセンチュリーはまるでスポーツカーのようで、「1GZ-FEの真の実力はこれか!」と驚きました。

もちろん、ショーファードリブンのセンチュリーはリヤシートに要人を乗せて優雅に静々と走る車ですが、いざ非常時となれば要人を守るべく、危険地帯から急速に離脱する性能を求められるため、当然かもしれません。

片バンク(6気筒)が止まっても、残りの6気筒で走り続けることも可能であったり、多くの箇所で二重系統化されたバックアップシステムなど、最高級車に求められる厳しい要求をクリアしている点でも、特別なエンジンです。

2代目センチュリーが発売(1997年)されてから、5リッターV8+モーターのハイブリッド車となった3代目へモデルチェンジ(2017年)するまでの20年で、トヨタはハイブリッドシステムによる電動化を極めました。

ハイブリッド以外のエンジンも直3、直4ターボによるダウンサイジングターボ化が進み、V6やV8など一部の高級車やハイブリッド車にしか残っておらず、それらも遠からず消えゆく運命です。

そのような時代になる前に間に合った1GZ-FEは、旧時代の集大成となったエンジンであり、国産乗用車用エンジン史におけるひとつの到達点として、記憶に残り続けることでしょう。

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