カスタム・アフターパーツ | 2021.05.11
なぜシャコタンに根強いファンがいるのか?シャコタンにするとどんなリスクがある?
Posted by 菅野 直人
「シャコタン」あるいは「ローダウン」とも言いますが、最近では車高ノーマル派が増えているとはいえ、カスタム(車イジリ)の第一歩として、まずはローダウンから…というユーザーもいまだに根強く残っています。なぜシャコタンには根強いファンがいるのか、あるいはシャコタンにしなくなったユーザーが増えた原因でもあるシャコタンのリスクには、どのようなものがあるでしょうか?
以下の文中の買取査定額は、投稿日時点での目安になります。実際の査定額については相場状況や車両の状態によって大きく変動しますので、あくまで参考金額としてご覧ください
SUMMARY
そもそも昔のシャコタンはほとんどが違法改造車だった
昔からサスペンションのスプリングを切って短くしたり、最初から短いローダウンサス(スプリング)を入れたり(板バネなら枚数を減らす)、あるいは「アブノミ」とも言われるショックアブソーバーのみで車を支えてスプリングを入れたり、いろいろな手法で車高を落とす「シャコタン」という改造がありました。
しかし、昔の日本では自動車の改造に対する規制が厳しく、たとえばローダウンサスを入れて車高をちょっと落としただけでも違法改造で摘発されるような状況でした。「マル改」と言われる申請をすれば、改造そのものは認められていたものの、申請に必要な書類の準備や費用を省くため、違法改造車も少なからずありました。
違法改造車、すなわち非合法な車に乗るドライバーは、必然的に暴走族や街道レーサー、あるいはその時代や場所によって「○○族」と呼ばれるような、アンダーグラウンドな世界に足を踏み入れていることになるので、「不良に憧れる世代」にとっては通過儀式のようでもありました。また、シャコタンでないのはダサい、カッコ悪いという風潮すらあった時代です。
もちろん、モータースポーツ用途などで必要性があってのシャコタンも存在し、そうした車はショップで正規の改造申請を行った「マル改」であり、今でも1990年代半ばまでにつくられた「E-DC2改」など、マル改のナンバーつき競技車両が現役で走っていますが、当時からのジムカーナなど、舗装路での競技車両は大抵サスペンション交換を施したマル改車です。
1995年の規制緩和で花開くシャコタン、ファッションか高性能化か?
それがアメリカからの「非関税障壁だ!」という声に応じ、自動車の改造について大幅に規制緩和されたのが1995年11月のことで、それまで認められなかった改造のほとんどが、「軽微な構造変更だから、いちいちマル改を申請しなくてよい」ということになり、エアロパーツだろうが、マフラーだろうが、ロールバーだろうが、大抵は認められるようになりました。
ショックアブソーバーの交換はもとより、タイヤの変更も認められるようになったため、保安基準で定められた「最低地上高9cm」「スプリングはいかなる状態でも遊ばない」さえ満たせばローダウンはやり放題となり、アンダーグラウンドなユーザーやモータースポーツ系のユーザー以外も、手軽にシャコタンを楽しむようになりました。
もちろんそれまでは、ほとんどが違法改造車に乗る不良の車、というイメージであったため、シャコタンに代わって「ローダウン」という言葉が一般的になり、ローダウンサスペンションや、本来はショックアブソーバーの開発段階でテスト用の調整機構だった「車高調(車高調整式サスペンション)」が大手を振って販売されるようになりました。
さてそうなると、「不良の通過儀式」「走り屋の定番」「モータースポーツ用途」といったお題目が不要となり、単なるファッションとしてのシャコタン改めローダウンが流行するようになったのですが、「何のために車高を下げるのか」と問われた時の理由は人によってさまざまです。
ある人は、とにかく車高を下げないとカッコ悪いと言い、かつて舗装路がまだ少なく道路事情が悪かった時代に車高(この場合は最低地上高)のスタンダードがつくられた日本車では、よほどの悪路を走っても、タイヤがフェンダーやタイヤハウス内側へ干渉しないよう、スカスカに隙間が空くようにつくられていましたし、中途半端なオフロード車のようで、あまりカッコよくないのは事実でした。
そこで、タイヤとフェンダーの隙間が縮まれば、グッとスタイルが引き締まりますし、同じく規制緩和で交換自由になったタイヤホイールもインチアップしたカッコイイものにすれば、それだけでも車が見違えたようになります。
そのため、一般人にとってのシャコタンと言えば、まずは「カッコイイから」でしたが、それだけでは説得力が弱いと考えたのか、「重心が下がって走行性能が上がるから」と大真面目に信じ込んでシャコタンにする人も多かったのです。
現実にはショックアブソーバーの減衰力やボディ剛性、主に走るステージ(舗装路でも公道かサーキットか、テクニカルなコースか速度重視か)によっても適切なパーツ選択やセッティングが必要だったため、単にシャコタンにするだけで走行性能が上がるわけもないのですが、とにかく車高を下げて少し硬いスプリングでも入れておけば、確かに重心が下がってステアリングのレスポンスも良くなるため、よほど変なスプリングさえ入れなければ、ユーザーが満足する程度のフィーリング向上は実現できました。
また、スイッチひとつでに車高を変化させることができる”エアサス”も大掛かりな加工を不要で取り付けられる車種専用品が増えており、値段はさておき一昔前よりドレスアップのハードルが下がっているのもポイントです。
車のハイテク化がもたらした「シャコタンが手軽でなくなる時代」
こうして1990年代半ばに合法化されたシャコタン文化は、「ローダウン」という新たなキーワードも得て大流行し、スポーツカーはもちろん、軽トラから大型のSUVやミニバンまで、買い物グルマだろうと何だろうと、とにかくまずシャコタン(ローダウン)にしておこうか、という軽いノリで当たり前のようになっていき、自動車メーカー側もそれならばというわけで、最初からローダウン仕様をつくるようになっていきます。
しかし、規制緩和で自動車の改造が容易になった一方で、21世紀に入る頃から車のハイテク化によって、次第に改造が困難になってきました。市販車に高度な電子制御が採用されるようになると、まずECU(エンジンコンピュータ)を容易に書き換えたり、サブコンと呼ばれる装置で手軽にエンジンの制御へ介入できなくなり、ABSやミッション、デフとの統合制御で複雑化すると、かつてのように容易なチューニングはできなくなってきました。
また、ハイブリッドカーの登場でマフラー交換はあまり意味がなくなってしまいましたし、次第にチューニングやドレスアップとは、エアロパーツを組んでシャコタンにするくらい、という車が増えてきました。
それでも、ドレスアップの主流として残っていたシャコタンに立ちはだかった大きな壁が、衝突被害軽減ブレーキなどの運転支援システムで、自動車誌の実験などでは、多少車高が変わった程度で精度に影響は出ないという結果は出たものの、少なくとも自動車メーカーとしてシャコタンにした場合に、システムが正常作動するとは保証しかねる、という流れになりました。
しかも、自動車メーカーとしては、完成度の高い市販車のバランスを崩すシャコタンは歓迎せず、「そういう車に乗りたい方はこれをどうぞ」と最初からメーカー純正カスタム仕様を準備するようになりました。また、ディーラー(正規販売店)のサービス部門でも「修理や整備」というより「部品と消耗品の交換」がメインになっていきましたから、純正部品を使っていない、メンテナンスのマニュアルが役に立たないこともある改造車は、シャコタンどころかホイール交換程度でさえ受け付けない販売会社が増えていきました。
もちろん、そうしたハイテク化以前の車や、現在でも運転支援システムの類はABSくらい(ブレーキ制御は立派なレベル1運転支援システムです)という車に乗り、正規販売店に世話になるのは新車購入時くらいで、日常整備はショップ通いという人なら問題ありませんが、大多数の人にとっては、もうシャコタンだけでもハードルの高い改造になったのは事実です。
それでもシャコタンに根強いファンがいるのは
しかし、シャコタンにする理由は、理屈以外の何かが働く場合もあります。
初めて愛車をシャコタンにした日、以前のように車へ乗ろうとしてシートの座面も当然のごとく低く、うまく乗り損ねてシートへ尻を叩きつけた覚えがある人もいるのではないでしょうか?
あるいは、以前撮った写真と今の愛車を見比べて、「金や手間をかけた甲斐があった!」と違いが一目でわかる瞬間の喜びや、今度はどこに手を付けようかと考える時のウキウキした気持ちが忘れられない人もいるはずです。
エンジンをかけるまでもなく、停めた車を眺めているだけでも満足ですし、走り出した時の違いを体感しやすい上に、エンジンやボディへ手を入れるより、はるかに安価で手軽なカスタマイズであるシャコタンは、「車を所有している楽しみを味わいやすい」という意味で、もっとも効果的でした。
それまでどこにでもあるような安い車であった愛車が、シャコタンにしただけで「個性的なカッコイイ車」になるのを一度覚えてしまうと、また次の車でもやりたくなるものです。
もちろん、シャコタンにすれば、ディーラーへの出入りを断られるかもしれない、やり方を間違えると車が壊れたり、走行性能悪化を招くといったリスクがあるとはいえ、「どうせ乗るならカッコよくしたいじゃない?」という理屈で説明しきれるものではない車好きの熱い想いは、誰にも止めることはできません。
愛車に夢も乗せている車好きがいる限り、シャコタンがなくなることはないでしょう。