コラム | 2021.05.11
今更聞けない!「最高出力」と「最大トルク」は何が違う?
Posted by 菅野 直人
車好きであれば、気になる車が発売されると、ほとんど無意識のうちに確認してしまうのが「諸元表」です。寸法やエンジンスペックなどが記されていますが、まず最初に見るのはエンジンの最高出力と最大トルクだ、という人も多いでしょう。どちらも「数字が大きい方が優れている」のは確かですが、その意味や違いまでわかると、なお車が楽しくなるかもしれません。
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SUMMARY
最高出力と最大トルクって何?その違いは?
日常的に乗るような車であれば、「諸元表」はどのような車のカタログにも記載されており、また、最近は掲載場所がわかりにくいことが多いものの、メーカーのホームページにも記載されています。
まずは、エンジンスペックを確認する人も多いと思いますが、最高出力と最大トルクを見て、「おぉ~、今度のはこんなスペックになったのか」と感心したり、ガッカリしたりしつつ、その数値が何を意味するかまで考えたことがない人も多いかもしれません。
いろいろな例えの中で、最もわかりやすいのが「自転車のペダル」で、まずはまたがって漕ぎ出す力が「トルク」。漕ぎ出す時は大きな力が必要なため、ギアつきの自転車であれば、一番低いギアにして、ギアがなければ、とにかくフン!と力を入れて走り出しますよね?
そうして漕ぎ出した自転車は、ペダルを漕ぎ、タイヤを回転させることで走っていきますが、それにより生み出される、路面を走らせている力が「出力」です。ペダルを漕いで、回転を増すほど「出力」は高まっていき、これ以上速く走れないよ!という限界が最高出力というわけです。
つまり「トルク」が基本にあって、「トルク×回転数=出力」と考えるのがもっとも理にかなっています。
また自転車に戻りますが、上り坂に差し掛かるとペダルを漕ぐ力、すなわち「トルク」が低いと回転を維持できず、だんだん遅くなっていきますが、この時に「最大トルク」が大きいほど坂をグイグイ駆け上がることができ、平地でも最大トルクが大きければ高いギアに上げ、速度をさらに増すことも可能です。
スペックを見るのであれば、まず最大トルクとその発生回転数を見よう
注目されやすいのは馬力、つまり最高出力の方ですが、基本になっているのはトルクのため、車の諸元表を見る時も、まず最大トルクと発生回転数をチェックするのがオススメです。
トルクが大きいほど加速には有利ですが、高回転型のエンジンでは、おおむね4,500回転以上、自然吸気エンジンでは、トヨタの4A-GE(5,200~6,000回転)やホンダのF20C(7,500回転)のように、よほどエンジンを回さねば最大トルクを発しないものもあり、そうした車はよく「低速域でスカスカ」などと言われます。
「トルク×回転数=出力」のため、トルクが低ければ、よほど回転数を上げないと出力も上がらず遅い反面、最大トルクを発揮するところまで回転さえ上げれば高出力を発揮して、「回して楽しいエンジン」となるわけです。
では2,000回転くらいで最大トルクを発揮してしまえば、回せば回すほど出力が増すのではないかと思うかもしれませんが、最大トルク発生回転域を過ぎると、回せば回すほどトルクは落ちていくため、どこかで必ず「回しても加速が鈍い」、すなわち出力も落ちるようになります。
このため、よく玄人好みなセリフで、「フラットトルクは速い」と言われ、トルクの山が低回転にあっても高回転までそのままのトルクが続くのであれば、回転を上げるほど出力が上がって加速が続き、レスポンスも良くなります。
最近の車では、最大トルク発生回転数に幅をもたせているものが多いのですが、そうしたエンジンを積んだ車は、最大トルク発生回転域にある限り気持ちよく走れて、運転も容易なことが多くなっています。
ターボ車はタービンとのマッチング次第
ただし、ターボチャージャーを装着したエンジンでは、タービンさえ回れば空気をグイグイ押し込み高いトルクを発揮しますが、タービンを駆動させるだけの排気圧が、高回転でしか得ることができないタイプのエンジンとタービンの組み合わせでは、低回転のトルクがスカスカです。
そうしたエンジンでは、タービンが駆動を始めた瞬間にトルクが急激に立ち上がる「どっかんターボ」の傾向が強く、ターボ車にも関わらず、最大トルク発生回転数が4,500回転など高い場合は、高回転型の自然吸気エンジンと同じく「とにかく高回転で走ってさえいれば、出力も出て楽しいが、低回転ではトロくさい」という車になります。
逆に、低回転でも駆動するタービンであれば、トルクがすぐ立ち上がるため、実用域での出力が出しやすくて運転しやすく、アクセルもあまり踏み込まなくてよく、燃費が良い反面、タービンの効率が落ちて、むしろ抵抗になる回転数に達するのが早いため、高回転域での出力増加は頭打ちになります。(ダウンサイジングターボと呼ばれる車にその傾向が多いです)。
モーターは、ほぼゼロ回転から最大トルクを発揮するが…
最近になって、最大トルクと最高出力の関係をややこしくしているのが、EV(電気自動車)やHV(ハイブリッド車)に使われているモーターで、これは回り始めた瞬間から最大トルクを発揮する特性があり、しかも高回転までトルクが落ちません。
そのため、ハイブリッド車で走行性能重視の制御を行えば、アクセルを踏んだ量に応じてトルクを増やし、タービンが元気に駆動しているターボ車のごとき加速が可能ですが、回せば回すほど電気を激しく消費するため、電力の消耗が激しく、バッテリーが切れた瞬間にトルクがガクンと落ちてしまいます。
つまりハイブリッド車の場合、記載されたエンジンスペックに加えてモーターアシストがどのように介入するかで性能が変わってきます。また、そもそもモーターだけで走るシリーズ式ハイブリッド(日産e-POWERが代表的)では、エンジンスペックは発電効率のみを意味するため、諸元表のエンジンスペックだけ見ても車の性能はわかりません。
しかも、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンであれば、「出力とトルクのバランスが取れた効率の良い領域(最大トルク発生回転域が多い)」がありますが、モーターにはそのような領域がなく回しただけ電気を消費するため、高速走行向きではなく、ホンダのe:HEV(旧i-MMD)のように、「高速走行はエンジンだけで走ろう」というシステムも登場しています。
実用性能やフィーリングはトルクで、最高性能は出力で決まる
このように、自動車の体感的な性能、すなわち日常域での実用的な性能やフィーリングは、エンジンやモーターのトルクで決まりますが、その車が持っている性能の限界、最高性能は出力次第です。
そのため、最高速が低くとも低回転からトルクを出すパワーユニットであれば、加減速を繰り返すような道では最高出力がはるかに高い車を追い回すことも可能ですし、逆に最大トルクが低くとも高回転で高出力を発揮するのであれば、最高速を発揮できるような道では、大トルクの車を突き放すことができます。
つまり、サーキットや速度無制限区間もあるヨーロッパのアウトバーンにでも行かない限り、最大トルクやその発生回転域の方がよほど重要ですが、車の重量や空力性能にも影響を受けるため、まずは総合性能を見る上での参考程度に考えてください。
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