コラム | 2021.05.11
「ブレーキがフェードする」とは?ベーパーロック現象とどう違う?
Posted by 菅野 直人
走る・曲がる・止まるは自動車が自動車であるために大切な3大要素と言えますが、その中でも一番重要なのは「止まる」であり、止まれない限り車は無事にまた走り出すことなどできません。それほど大事な「止まる」を実現するブレーキが効かなくなる現象のひとつに「フェード現象」があります。同様に重要な障害であるペーパーロック現象と合わせご紹介します。
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SUMMARY
数ある車のブレーキの中でも、もっとも重要な「フットブレーキ」
一般的な自動車には、自動車の三要素「走る・曲がる・止まる」のうち、もっとも大事な「止まる」を実現するため、いくつかのブレーキが備えられています。
最近はさまざまなパワーユニットが登場しているため、やや説明が複雑になっていますが、エンジンの力で直接タイヤを駆動する昔ながらの自動車であれば、エンジンそのものの抵抗で減速させる「エンジンブレーキ」と、大型トラックなど重量級の自動車の場合、排気圧による一種の逆噴射でエンジンブレーキの効きを強める「排気ブレーキ」。
ハイブリッド車や電気自動車、その他に車内電装品のための電気を充電するバッテリーを持つ自動車でも、発電機を回す力を抵抗にしてエンジンブレーキと同じ役割をさせる「回生ブレーキ」。
その他、レーシングカーなど特殊な自動車の場合、リアウイングなど空力パーツを可動させ、空気抵抗で減速させる「エアブレーキ」や、より直接的にその効果を生み出す「ドラッグシュート」もあります。
さらに、大抵の自動車であれば停止位置で自動車を固定するのを主目的として、副次的には後輪をロックさせてスピンターンやドリフトも可能な「パーキングブレーキ(ドライバー横にブレーキレバーがある場合は「サイドブレーキ」)」もあり、近年はスイッチ式の電動パーキングブレーキも増えました。
しかし、ここまで紹介したのは、いずれも走行中に減速、あるいは停車中の固定を目的としているものの、「減速して停止させる」までの自由度を持つブレーキは、自動車の場合はたいてい足踏み式のフットブレーキしかありません。
エンジンブレーキやパーキングブレーキも、自動車を操作する上で重要な役割を担うケースもありますし、モーターで走る自動車のワンペダル走行のように、回生ブレーキである程度のブレーキをまかなえるケースもありますが、幅広い範囲で操作性に優れ、自動車を運転する上でもっとも重要なのは、フットブレーキなのです。
フットブレーキが効かなくなる「フェード現象」とは?
もし走行中、ブレーキペダルを踏んでも減速しなかったら、冷静を保てる人でも一瞬は、そして大抵の人はそこからずっとパニックに陥るでしょう。
その原因は単なるアクセルとの踏み間違いという場合もあり、近年の自動車では踏み間違い防止装置(ブレーキをかけるべき状況で急激にアクセルを踏んでも加速しない)を装備することが増えていますが、本当にブレーキを踏んでも減速しない場合、他の原因があります。
代表的なのが「フェード現象」で、フットブレーキというのは通常、ブレーキペダルを踏んだ力に応じて、ディスクブレーキであればブレーキディスクと、それを左右から挟み込むブレーキパッドで、ドラムブレーキであればブレーキドラムと、そこに押し付けられるブレーキシューの摩擦によって、走っている自動車を減速させるのです。
しかし、ブレーキパッドにせよブレーキシューにせよ、接触面の材質によって減速時に生じる摩擦熱に耐えることができる限界があり、その限界を超えると素材が炭化して変質、あるいは気化(ガス化)によって接触面との間に隙間をつくってしまい、ブレーキをかけるのに肝心な摩擦力をほとんど発生できなくなります。
この状態を「フェード現象」と言い、こうなると一旦ブレーキをゆるめ、問題になっている炭化やガス化された部分を冷却、元の摩擦材としての性質を取り戻すまでブレーキは効きません。
フェード現象がさらに進行すると、もっと恐ろしい「ベーパーロック現象」が起きる
摩擦材表面の問題にとどまるフェード現象は冷静に対処すれば、再びブレーキが効くようになる可能性は高いものの、パニックを起こしてさらにブレーキペダルを踏み続けた場合、ブレーキパッドやブレーキシュー全体に帯びた熱がさらに油圧ブレーキのオイルラインにまで伝わり、沸騰したブレーキオイルは気泡を発生させます。
油圧ブレーキのブレーキオイルは、圧力をかけても体積がほとんど変わらないという液体の性質ゆえ、ブレーキペダルからの力をブレーキパーツへ伝達させる役割を果たすわけですが、ブレーキラインの中で発生した気泡、つまり気体は圧力をかければ体積が増減するため、いくらブレーキペダルを踏んでも気泡が縮んで力を吸収してしまい、ブレーキパーツへ圧力をほとんど伝えません。
これが「ベーパーロック現象」で、ここまで症状が悪化するとブレーキパッドやブレーキシューの接触面がいくら回復しても、ブレーキペダルを踏んだ力がそこまで伝わらないため、ブレーキの性能はいくらも発揮できず、何かフットブレーキ以外の方法で止めることを考えねばならない、恐ろしい症状なのです。
フェード現象やベ―パーロック現象の予防方法
そもそもフェード現象は、「ブレーキパッドやブレーキシューの熱が限界を超える」ことにより起きるため、予防方法はいたって単純、「フットブレーキ以外の減速方法を積極的に使う」ことです。
ハイブリッド車や電気自動車の場合、もともとフットブレーキでも最初は回生ブレーキが作動しますし、トヨタのハイブリッドシステム「THS」では疑似的なエンジンブレーキを強力作動させる「B」ポジションがあります。
昔ながらの自動車では、MTでもAT(CVT)でもギアを1~2段、あるいはそれ以上落とすことでエンジンの回転数を上げ、抵抗を増やしエンジンブレーキを強くかけることで、フットブレーキに頼らずある程度の減速は可能ですし、モーターで走る自動車の場合は、アクセルペダルをゆるめるだけで強い減速が発生する「ワンペダル走行」が可能な車種もあります。
長い下り坂など、最初からフットブレーキだけでは負担が大きそうな道では、エンジンブレーキや回生ブレーキを多用し、それを可能にするためにも、先行車がいる場合には極力フットブレーキを使わず済むよう、車間は十分に開けましょう。
ただし、大型トラックなどの排気ブレーキを除き、フットブレーキ以外の減速手段はほとんどの場合においてブレーキランプが点灯しません。そのため後続車がいる場合は、フットブレーキ以外の手段を多用していても、後続車に減速を知らせるため軽くブレーキペダルを踏み、ブレーキランプを点灯させるのも重要な事故防止手段です。
ブレーキパーツでフェード現象を防ぐ方法もある
また、軽量または安価な自動車であればドラムブレーキや、単なる一枚板のソリッドディスク式ディスクブレーキを使い、ある程度重かったり高性能エンジン搭載などブレーキの負担が大きい自動車では、2枚のブレーキディスクを隙間が空いた状態で張り合わせ、中に空気を通すことで冷却効果を発揮する「ベンチレーテッドディスク」を採用したり、ブレーキドラム表面に放熱フィンを設けています。
他にも純正採用部品や社外品で、ディスク表面に穴を空けたり、溝を設けることで、熱気を逃がしたり、常にブレーキパッド表面を削って炭化やガス化を防ぐ「ドリルドローター」「スリットローター」あるいはその両方を採用したブレーキディスクもあり、それらへの交換も有効です。
ブレーキパッドやブレーキシューの方でも、耐熱温度を向上させた製品がありますが、あまり耐熱性の高い製品を選ぶと、冷間時にブレーキがほとんど効かず温度が上がってからでないと効果を発揮しないものもあり、ブレーキディスクやブレーキパッドの中には、消耗時に多数の削れカスをホイールにこびりつかせ、頻繁な洗浄を要求するものもあるため、社外品の選択には注意してください。
それでもフェード現象やベーパーロック現象が起きてしまったら?
フェード現象はブレーキを踏み続けるとベーパーロック現象まで悪化してしまいますが、逆にポンピングブレーキという、踏み続けずに何度かペダルを踏み分ける技を使うことで、次第にブレーキ性能が回復してくる場合もあります。
しかし、それでも回復しない、いよいよベーパーロックにまで発展したとなると、まずはエンジンブレーキなど駆動系の抵抗で減速を試み、MT車の場合は通常のエンジンブレーキより高いギアに入れて半クラッチでオーバーレブ(過回転)を防ぐなど、とにかく減速の努力をしましょう。
パーキングブレーキも積極的に使いますが、急激に作動させるとタイヤロックで挙動が不安定になるため、レバー式でも足踏み式でも、ロックさせないようジワジワと効かせるのがコツです(電気式パーキングブレーキの場合、非常ブレーキとしての能力も考慮されていて、走行中に作動させると自動的に停止させるまで減速させてくれるものもあります。
そこまでやってもダメな場合は、本当に最後の最後の手段、ブレーキ故障による事故が多い道では路側に準備されている、柔らかい砂で作られた「緊急退避所」へ突っ込ませるか、ガードレールなど、致命的なダメージにならない物へ自動車をぶつけたりこすりつけ、その摩擦力で自動車を無理やり減速させ、対向車や硬い障害物への正面衝突や、崖からの転落など悲劇的結末を回避するしかありません。
もちろん、そのような事態にならないよう、日頃からエンジンブレーキなどでフットブレーキの負担を和らげる運転を心がけ、「いざという時」が来ないようにするのが、一番肝心です。
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