カスタム・アフターパーツ | 2022.01.07
今さら聞けない、制動距離を短くする方法
Posted by 菅野 直人
車を停止または減速させるまでの距離は、「ブレーキをかけようとして、実際に踏み始めるまでの空走距離」と、「ブレーキが作動してから止まる(減速する)までの制動距離」の2種類があります。空走距離は、運転への集中やメガネなど視力の改善、最近では自動ブレーキなど運転支援システムでの改善に期待という方法もありますが、「制動距離を短くする」には、どのような方法があるのでしょうか。
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制動距離を左右する要素
制動距離を左右するのは大きく分けて2つ、「車重や性能に見合ったブレーキ性能」と、「タイヤの性能」です。
その1「ブレーキ性能」
車重が重い車に貧弱なブレーキ性能では、車を減速させるのに時間がかかります。高性能エンジンを積んで強力な加速や高速性能を発揮できる車でも同様です。
また、一般的な車に用いられている、「ブレーキパッドやブレーキシューの摩擦材をブレーキローターなどに押し付けた摩擦力で制動する」ブレーキの場合、猛烈な摩擦熱を発するため、「速度エネルギーを熱エネルギーに変換して止める」と解釈できます。
それゆえ、単に一発の制動能力が高いだけで容量不足のブレーキでは、熱エネルギーへの変換が限界に達した状態、具体的には加熱しすぎた摩擦材の炭化、ブレーキローターの変形などで、摩擦力が低下しやすくなるもの。
長い下り坂でブレーキを多用すると、途中で効かなくなる事態も発生するため、そうした道では意図的なシフトダウンでエンジンブレーキを多用するよう注意する標識がでているのは、そのためです。
もちろん、車そのものの車重に加え、ドライバー1人で荷物もない状態に比べ、フル乗車で荷物満載の重い状態ではブレーキの性能が相対的に低下するほか、負担(熱エネルギーへの変換)も大幅に増えて、ブレーキの容量オーバーを起こしやすくなります。
さらに、近年ではABSの応用によって、「路面状況や運転状況により、四輪のブレーキを積極的に使って走行時の安定を保つ」という電子制御が多用されつつあり、滑りやすい路面や無理な運転では、知らないうちにブレーキの摩擦材が減るようにもなりました。
つまり、技術が進歩した結果、頻繁に点検しないと、いざという時に必要なブレーキ性能を発揮できないことも、ありえるわけです。
その2「タイヤの性能」
タイヤの性能、より具体的に言えば「路面状況や運転状況に応じたタイヤの性能」も、制動距離を大きく左右します。
積雪路やアイスバーン(凍結路)でスタッドレスタイヤなど冬用以外のタイヤを使えば、もちろん制動能力はほとんど期待できませんし、逆に冬用タイヤを通常の舗装路、特に濡れた路面で使うと、これも制動能力は大幅に低下します。
溝が少なく、硬くて高温に強いタイヤほど、真夏の路面温度が高く乾燥した舗装路で高い制動能力を発揮しますが、濡れた路面では溝による排水性能がなければ、路面とタイヤの間の水で浮いてしまい、制動能力を発揮できません。
溝が多くて吸水ゴムを採用して排水能力や吸水能力に優れ、低温でも柔らかいタイヤほど積雪路やアイスバーンでの制動能力は高いのですが、高温の乾燥路ではタイヤがヨレやすく、濡れた路面だと排水能力が高い以上に接地面積が少ないため、制動能力は低下します。
現在は、夏冬兼用の「オールシーズンタイヤ」も販売されていますが、いかなるシチュエーションでもある程度対応できる一方、逆に言えば「どの季節や環境でも、そこそこの性能」でしかありません。
また、普通の街乗りではなく、サーキットなどでのスポーツ走行、高速道路での長距離高速巡航、アップダウンの激しく加減速が多い山道など、タイヤの負担が大きい場所での運転では、タイヤの耐久性能も問題になります。
タイヤも結局は路面との摩擦で車を走らせるため、減速時に熱エネルギーに変換するのはブレーキと同様なうえ、加速や普通の走行時にも摩擦で発熱するので、あらゆる走行性能に対してタイヤ選択は大きく影響を与えるのです。
だからといって闇雲に高性能タイヤを履き、頻繁に交換するというのも現実的ではないため、「それなりの性能のタイヤなら、無理な運転はしない」という選択も重要になります。
制動距離を短くする方法
制動距離の2大要素を踏まえたうえで、制動距離を短くする方法を以下に紹介します。
その1「タイヤ」
単純な話、制動距離を短くするだけであれば、冬はスタッドレスタイヤ、冬以外はスポーツ性能の高さを売りにした、なるべく新しいタイヤを履くのが一番です。
冬はラリースタッドレス、冬以外はセミスリックという、「公道で使えるレーシングタイヤ」の選択肢もありますが、耐摩耗性の低さによるコストやロードノイズの大きさによる快適性悪化を考えると、あまり現実的ではありません。
コストやバランスを考えた場合、冬のスタッドレスタイヤ推奨は変わりませんが、冬以外は「ウェット(濡れた)路面での性能や耐摩耗性に優れているのを売りにしたエコタイヤか、加えてロードノイズの低さが売りのコンフォートタイヤ」あたりが、落としどころでしょう。
その2「ブレーキパッドやブレーキシュー」
これも制動距離を短くするだけならば、スポーツ用製品一択で、街乗りから日本における高速道路での走行程度であれば、0度から効く低温性能重視のパッド/シューが優れています(高温域の性能重視な製品は、超高速巡航が許されたヨーロッパや、スポーツ走行向け)。
スポーツ走行までやらないというユーザーでも、純正とさほど変わらない価格の製品で構いません。
純正とスポーツ用で値段が変わらないの?と思うかもしれませんが、純正は耐摩耗性も重視しているためそれなりに高価なのです。
逆に言うと、スポーツ用は制動能力に優れる代わり、耐摩耗性が落ちるため交換頻度が多く、ホイールに付着するブレーキダストの量も多いため、ホイールも頻繁に洗わないと、そのうち鉄分に付着したブレーキダストがサビてきます。
また、純正装着品の中には、耐摩耗性を重視するあまり、踏みはじめのブレーキタッチが非常に弱いものがあり、そうした純正品を装着した車種では、スポーツ用までいかない「純正相当品」へ交換するだけで、劇的に踏みはじめの制動力が改善されるものもあるのです。
(※筆者が知る限り、ダイハツ車やトヨタ、スバルに供給されるダイハツ製OEM車の純正ブレーキパッドは耐摩耗性全振りのため、ブレーキパッドを純正相当品へ交換するだけで素晴らしくブレーキが良くなります)
その3「ブレーキローター」
ブレーキパッド/シューの交換だけではブレーキ容量までは変わらないため、スポーツ走行など激しい走行を行う人では、ディスクブレーキのブレーキローター交換がオススメです。
ローター表面に多数の穴が開いたドリルドローター、溝が掘られたスリットローター、あるいは両方あるローターもあり、いずれもブレーキ時にブレーキパッドとの摩擦力を上げるだけでなく、パッド表面を少しずつ削って常に熱で劣化していない摩擦材を使えます。
連続した激しいブレーキによる熱で、通常のブレーキローターの場合、次第に制動距離が伸びていくところ、スポーツ走行用のブレーキローターであれば、パッドやローターの摩耗限界までブレーキ性能を維持できるのです。
また、通常のブレーキローターでも使っているうちに、次第に摩耗したり熱で歪んだりしてきます。そこへ新品パッドを装着しても接触面積が十分に確保できないため、点検で交換を勧められたブレーキローターは、素直に交換した方が良いでしょう。
その4「その他」
他には、スポーツ走行を行う人であれば、ステンメッシュ製ブレーキホースや、スポーツ用に沸点の高いブレーキフルードを使うなど、コストダウンのため市販車では使われていない高性能パーツへ交換できる部分がいくつか存在します。
また、運転方法もエンジンブレーキの適切使用、頻繁な加減速を伴わないよう他車との車間距離を適切に保つなど、運転方法によってブレーキやタイヤを温存し、熱による能力低下を防ぐ方法はスポーツ走行のみならず、日常の運転でも有効です。
その他、雨や雪など路面状況が悪い場合や、路面状況や車の性能に見合ったタイヤを装着している場合は、意図的に速度を落として各種操作に余裕をもたせる運転も心がけましょう。
基本は日頃のメンテナンス
ここまで制動距離を左右する要素、制動距離を短くする方法を説明してきましたが、いずれも「ブレーキやタイヤがマトモだったなら」が前提なのは、言うまでもありません。
ブレーキパッドやシューが減っていれば、タイヤが減りきって溝がなかったり、スタッドレスタイヤが経年劣化で固くなっている場合と同様にマトモな性能は発揮できないため、日頃の点検やメンテナンスがもっとも大事です。
キッチリ点検して減ったものは交換!これが制動距離を短くする、短いままの状態を維持するいちばん重要な方法ですね。